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アナキンのなしえなかった「根をもつことと翼をもつことの調和」

 ちなみに、スター・ウォーズの「エピソード1~6」を通じて「根をもつこと」と「翼をもつこと」の葛藤を最も体現しているのは、ルークとレイアの父親でありシリーズ全体を通じての核心的存在でもある「アナキン・スカイウォーカー=ダース・ベイダー」だ。

©getty

 アナキンは、辺境の惑星で奴隷としてこき使われる少年だったが、銀河共和国の守護者であるジェダイ騎士に見込まれ、故郷を離れてジェダイへの道を歩み始める(=翼をもつこと)。だが、故郷に母親を奴隷の身分のまま残してきたことが、彼にとっての強烈なトラウマとなり、ジェダイにとっては禁忌である、「肉親や家族への強い執着(=根をもつこと)」を生み出す。その家族への思い自体が、彼を悪の世界へと転落させてしまう最大の要因となってしまう。つまり、アナキン=ベイダーの悲劇自体が、「根をもつこと」と「翼をもつこと」の相克がもたらした結果と言えるのだ。
 
 一方、「エピソード4~6」では、先に述べたように「翼をもつこと」と「根をもつこと」はそれぞれ、ルークとレイアという別々の人格に振り分けられた。その結果、両者の対立は顕在化せず、一応のハッピーエンドを迎えることができた。だが、スター・ウォーズという作品全体を通じての問いかけである「根をもつことと翼をもつことの相克をどう解決するのか」ということへの答えを回避してしまった、とも言える。

 そして、「エピソード7」から始まる新三部作。レイは作中の「翼をもつこと」の象徴である「フォースへの道」を歩み始めると共に、チューバッカからは、ソロに代わるファルコン号の主としても認められている。ファルコンに乗る、ということは絶えず仲間との関わりを続け、「根をもつこと」に接近し続けることでもある。

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 レイにとってのこれからの課題は、アナキンのなしえなかった「根をもつことと翼をもつことの調和・両立」にあるのではないか。レイが「翼をもつこと」と「根をもつこと」に、どのように向き合っていくのか。それは、新三部作の評価を決定づける要因となるだろう。

 ルーカスフィルムがまとめた最初のスター・ウォーズのメイキング本『メイキング・オブ・スター・ウォーズ』の日本語版197ページには、ファルコン号の操縦席に座るソロ、レイア、ルーク、そしてチューバッカの写真が収められている。

 おそらくは撮影の合間のスナップショットだろうが、しっかりと前を見すえた彼らの表情は、はちきれんばかりの若さと、覇気と、希望に満ちている。まさに、第一作のスター・ウォーズの雰囲気をそのまま体現した一枚と言えるだろう。

 バンダイのファルコン号を作る時、私も「愛するファルコン号に違法改造を繰り返す若き日のハン・ソロ」の気持ちを、つかの間追体験できる。それは私自身が今も大人になりきれず、「モラトリアム」を続けている何よりの証しだろう。しかしその一方で、ファルコン号を作ることで得られる悦びは、この写真の中の彼らが持っていたであろう「くそったれな世界だけど何とか生き延びてやろう」という覇気をも、私の心に甦らせてくれるのだ。

INFORMATION

『アメリカン・グラフィティ』
Blu-ray ¥1,886+税 DVD ¥1,429+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント