「文藝春秋」11月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年10月16日)

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 三浦春馬さんが亡くなってから3カ月が経とうとしているが、いまだに彼の自死をめぐる報道は止まない。

 三浦さんだけではない。リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた木村花さん、芦名星さん、藤木孝さん、竹内結子さんなど、芸能人の死をめぐる報道が「次なる死」を招きかねないと警鐘を鳴らすのが、筑波大学教授の斎藤環氏だ。

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三浦春馬さん ©文藝春秋

夏から自殺者は増えている

「大変言いにくいことですが、精神科で患者が自死すると、同じように死を選ぶ患者が続発することがあります。同様に、生と死の境界線上にいる人たちが、芸能人の死の『物語』に触れることで死に傾く可能性が非常に高い。

 精神科医として私が診ている患者さんの中にも、三浦春馬さんや、竹内結子さんの自殺に深くショックを受けている方がいらっしゃいます。元からその芸能人の長年のファンだったわけではないのに、です。芸能人たちの死は、心が弱っている人たちに対して、大きな影響を及ぼしかねない。何とか立ち直っても、次の死でまたショックを受ける。メンタルを打ち砕くようなダブルパンチ、トリプルパンチを受けている人は、相当数いるはずです。このことを、きちんと考慮する必要があります」

竹内結子さん ©共同通信社

 警察庁の発表によれば、8月の自殺者は1854人で、前年同月比で251人増加している。今年上半期の自殺者数が前年を下回っていたことを考えれば、この夏に急増したと言っていい。自殺が増えた背景にあるのは、「コロナうつ」という言葉に象徴される、新型コロナウイルスがもたらした社会の閉塞感だ。

「投影性同一視」が悪影響を及ぼしている可能性

 それにしても、なぜ華やかな世界にいる芸能人の訃報が続くのか。斎藤氏は、芸能人には「投影性同一視」と呼ばれる心理作用が起こりやすく、それが悪影響を及ぼしているのではないかと指摘する。