サッカーには、他のエンターテイメントと決定的に異なることがある。
それは「所属会社間のスターの引き抜きが日常茶飯事で、そのたびにとてつもない違約金が支払われる」ということだ。
FIFAのルールにより、サッカー界では他クラブから選手を引き抜きたかったら、移籍金という名の違約金を支払わなければならない。契約期間中、選手はクラブの所有物であり、勝手によそへ移ることは許されないのだ。
歴代の移籍金ランキング(『Goal』調べ)のトップ3を見ると、1位ネイマール(バルセロナ→PSG:278億円)、2位キリアン・ムバッペ(モナコ→PSG:181億円)、3位ジョアン・フェリックス(ベンフィカ→アトレティコ・マドリー:158億円)。
浦和レッズの年間収入が約82億円であることと比べると、いかに常軌を逸した売買であるかがわかる。
「ダイヤの原石」を見つけるサッカー代理人
その中心にいるのがサッカー代理人だ。
代理人の仕事は、契約交渉、キャリア設計、人生相談、財務相談など多岐にわたるが、クラブ側から特に求められるのは「人材発掘=スカウト」だ。
もちろん各クラブはスカウト専門のスタッフを雇っているが、世界各地で毎週のように試合が行われるためとてもチェックし切れない。そこで代理人が世界中を飛び回り、クラブに代わって「ダイヤの原石」を発見するのだ。
たとえばドルトムントはドイツを代表するビッグクラブだが、スカウトは約10人しかいない。そんな彼らに香川真司を推薦したのは、代理人のトーマス・クロートだった。
クロートは高原直泰の移籍仲介(ジュビロ磐田→ハンブルガーSV)をきっかけに日本サッカーの可能性に気づき、J1だけでなくJ2の試合もチェックするようになった。そこで見つけたのが当時J2のセレッソ大阪でプレーする香川だった。
クロートの推薦により、ドイツ移籍が決定。のちに香川はドルトムントのリーグ2連覇に貢献し、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドに飛躍した。
また、岡崎慎司がシュツットガルトで苦しんでいたとき、マインツ移籍を勧めたのもクロートだった。マインツなら当時岡崎がプレーしていたサイドMFではなく、本来のポジションである中央のFWで起用してくれる。岡崎はマインツでエースに成長し、イングランドのレスターへ引き抜かれていった。