各選手がボールを自分のものにできる範囲に注目し、それをピッチに投影。選手もボールも動くので、時事刻々と「ボールを自分のものにできる範囲」の場が変化していく。
近年サッカー界では、スタジアムに特殊なカメラを設置し、各選手が試合でどう動いたかを記録する「トラッキングデータ」が流行している。だが、走行距離やスプリント数の測定には生かせるものの、サッカーそのものの評価に使えていないという課題があった。
スピアマンのモデルはそこに大きなヒントを与えた。
リバプールのグラハムとワスケットはすぐに彼に連絡。1年間のやり取りを経て、革命児はアメリカからリバプールの練習場であるメルウッドへとやって来たのである。
彼らは膨大なトラッキングデータを使って、ディープラーニングを実施。試合のそれぞれの瞬間に「ボールを持っているチームが15秒以内にゴールする確率」を予測するモデルを構築した。
ボールを持っていない選手もゴールへの貢献率がわかる!
このモデルは、ピッチにいる全員の配置と速度を考慮しているという点で、従来のモデルとは完成度の次元が違う。ボールに触ってない選手のプレー、たとえばフリーランニングの効果もしっかりと考慮されている。
1つのプレーが行われるごとに確率は変化するので、その選手のアクションが「15秒以内にゴールする確率」にどう寄与したかまで計算できるのだ。
リバプールにとって都合の良いことに、時を同じくしてフランスのSkillCorner社やカナダのSportlogiq社といった、テレビの中継画像からトラッキングデータを“推測”する会社も出てきた。従来はスタジアムに特殊なカメラを設置しなければトラッキングデータを取れなかったが、AIに実際のトラッキングデータとテレビ中継画像の2つを学習させ、高精度の擬似トラッキングデータを生成できるようになったのだ。
リバプールはSkillCornerのサービスを使い、欧州主要リーグのテレビ中継映像から擬似トラッキングデータを作り、それを自分たちのモデルに入力。他クラブの選手の能力を、あらゆる角度から数値化できるようになっていった。
こうして近年、世界で最強を誇るリバプールの進化が生まれた。
その要にもなっていた、リバプールの選手補強に「当たり」が多いのは、最先端のリサーチ部門と無縁ではないのである。
もはやリバプールは特定の代理人に選手発掘を頼る必要はないのだ。
『フットボールアルケミスト』(木崎伸也(原作)/12Log(漫画))は、2019年11月より「ヤングアニマル」(白泉社)にて連載開始。選手の代わりにクラブと交渉し、よりよい条件を提案するサッカー代理人をテーマに、敏腕代理人の先崎とインターンとして採用されたリサの活躍と成長を描く。2020年10月に第2巻が発売。