コロナ禍で閑散とした夜の新宿駅東口。若いホスト風の男が、暴力団組員の男に追いかけられていた。逃げ惑ったホストが暴力団組員に取っ捕まると、殴られた上に、大声でこう怒鳴られていたという。
「ホストだろうが、スカウトのこと、何か知ってんだろうが?」
国内最大の繁華街、新宿・歌舞伎町を舞台にした「スカウト狩り」事件。6月4日夜、区役所通でスカウトたちが住吉会系加藤連合会傘下組織の組員約100人に追い回されて、殴る蹴るの暴行を受けた一件だ。
しかし、事件は1日では収まっていなかった。事件のあった4日以降も、暴力団組員の「狩り」は続いていたのだ。区役所通だけでなく、歌舞伎町全域、さらには新宿駅東口周辺まで戦線を広げて、暴力団組員がスカウト風の男を見付けては暴行を加える事件が繰り返されていたのだ。
暴力は戦線拡大していった
当時、歌舞伎町に勤務するホストやボーイなど“夜の街”風の男性は次々と、加藤連合会傘下の組員たちに、対立するスカウト会社のメンバーの疑いをかけられていた。
「お前スカウトだろう!」
「違います。僕はホストクラブで働いています。ホストです」
そして、冒頭で紹介したように逃げ出そうとすると、暴力団組員からつかまれてさらに大声で怒鳴られたうえに殴られる。「信じて下さい。何も知りません」と懇願しても、「スカウトのことで何か知らないのか。あいつらが、どこにいるか教えろ」と脅され続けたという。
暴力団業界の間でも“武闘派”として知られる加藤連合会傘下の暴力団組員らが目の色を変えて、スカウトを探し回っていることは瞬く間に知れ渡った。
スカウトだけではなくホストクラブ勤務のホストやキャバクラのボーイなど、夜の街で働く男性は多いが、歌舞伎町を歩いているだけでいつ暴力を振るわれるか分からない状態となり、あっという間に街の目立つところから男性が姿を消した。それでも、出勤しなくてはならないホストらは、目に留まらぬように足早で移動する姿が見られたという。