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名和晃平の神々しきオブジェ 彫刻的なるものを「眼で触る」

アート・ジャーナル

2020/11/21
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眼で作品の表面を触っているような感覚

 名和晃平はありとあらゆる素材と技法を用い、形態も立体から平面まで、多様な作品を着々と生み出してきた。ただしどんなときも、「彫刻的なるもの」を追求するという姿勢を名和が崩すことはない。

 彫刻的というのは、表面の質感や物質の存在感を見る側に意識させ、モノがモノとしてあることの凄みや不思議を強く感じさせる……といったニュアンスか。《Trans-Sacred Deer(g/p_cloud_agyo)》はまさにこの格好の例といえそうだ。

 他にも同展では、彫刻の表面に着目した名和の代表的なシリーズ「PixCell」も観ることができる。そのうちのひとつ《PixCell-Reed Buck(Aurora)》は、ウシ科の哺乳類リードバックの剥製をインターネットを介して入手し、その剥製の表皮を大小の透明な球体ですっぽり覆ってしまったもの。

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《PixCell-Reed Buck(Aurora)》

 この哺乳類の前に立った者は、無数のレンズによって拡大・歪曲されたかたちでしか像を見ることができない。なんとももどかしいけれど、近寄ったり離れたりして対峙しているうち、これほどモノの表面を何とか見ようと執着することもあまりなかったなと気づかされる。自分がふだんいかに「見ること」をいい加減に済ませていることか……、改めて突きつけられる思いだ。

《PixCell-Reed Buck(Aurora)》

 さらには平面性の高い作品だと、粘度調整した絵具を詰めたタンクに圧力をかけ、ノズルから出る絵具によって線を描く「Moment」。大小の球体にライトグレーの短繊維を植毛してベルベット状にし、それらを平面上に貼り付けた「Rhythm」などのシリーズも観られる。

「Rhythm」

 会場に展開されているのはいずれもモノの感触がはっきりと伝わってきて、強烈な存在感を発する作品ばかり。観て回っていると、ああいま自分は眼でモノを触っているな……、といった気分になってくる。視覚は触覚を兼ねることもある、そんな新たな発見をさせてもらえる展示だ。

名和晃平の神々しきオブジェ 彫刻的なるものを「眼で触る」

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