放送開始直前に飛び込んできた訃報
今年3月30日に放送をスタートさせた「エール」。その直前の29日、新型コロナウイルスによる肺炎で、西洋音楽の重鎮・小山田耕三役を演じる志村けんさんが亡くなった。野間口にとっても、志村さんは非常に大きな存在だったという。2人は2014年から不定期に放送されていたコント番組「となりのシムラ」(NHK)で共演していた。
「志村さんが亡くなられて、こう、心の拠り所を無くしたような気持ちになりました。よく『となりのシムラ』でご一緒していて、偉大な方で近くにずっといられるもんだと思っていましたから。
僕と同世代の人は、きっと皆さん、人生で最初に面白いと思えたものは志村さんに教えてもらったのではないでしょうか。だから、初めて共演した時は『志村けんだ! 本当にいるんだ!』って感動しましたね。『後光が差す』ってこういうことを言うんだって思いました。
ある時、喫煙所に志村さんがポツンと一人でいらっしゃって、タバコを2人で吸うみたいな状況になってしまって。『ずっと好きでした』みたいなことを伝えると、『あ、ありがとうございます』と返して下さいました(笑)。嬉しかったですね。
でも、普段の志村さんは、あの舞台で底抜けに明るい感じとは違うんです。志村さんから『お願いします』なんて言われても、声がか細くて『えっ?』って何回も聞き直した記憶があります。とってもシャイな方でした。ただ、『エール』の現場では一度もお会いしていないんです。だから、亡くなったと聞いた時は余計にショックでした」
役者をもう辞めようと思った
「エール」の撮影も4月1日から中断。収録が再開されるのは、およそ2カ月半後の6月16日のことだった。
「志村さんが亡くなって、エールの撮影も中断して、4月4日に初日を迎える予定だった舞台『桜の園』も全公演中止が決まりました。目の前の仕事がどんどんなくなって、役者って本当に必要な存在なのかな、必要とされていないんじゃないのかなって思ったりもしました。そのことは妻にも伝えたんです。彼女は訪問介護の仕事をしているんですが、僕も役者はもう辞めて、介護のアルバイトをしようかと思いましたね」
そんな野間口を救ってくれたのは、同じ業界のスタッフたちだった。