あまりに目まぐるしく変化し続ける現代。私たちの社会は、これからどこへ向かおうとしているのか。不安に思っている人に、この本は大いに参考になるでしょう。なにせ世界トップレベルの理工系大学MIT(マサチューセッツ工科大学)が誇るメディアラボ所長である伊藤穰一氏と同ラボの客員研究員の共著なのですから。
コンピューターがただの箱ではなく使えるのは、OS(オペレーティングシステム)があるからです。たとえばウィンドウズが一例です。著者たちは、現代社会を動かす原理をOSに例え、新しいOSを使うにあたってのヒントを九つ提示しています。
たとえば「権威より創発」。権威ある誰かの指示によって動くのではなく、個々の研究者がインターネットや誰でも利用できるオープンなソフトウェアを駆使することにより、個々の創発が集合知となって、驚くべき速度で研究が発展する。細菌を狙い撃ちするウイルスをプログラムすることによって、耐性菌の耐性を失わせる。こんな合成生物学の現状が紹介されます。
とはいえ、そこには危険も伴います。こんな遺伝学者の警句も合わせて紹介されています。
「どこかの退屈した一三歳が、人類を一掃するウィルスをエンジニアリングするかもしれない。すべてあり得ることだし、問題は、あなたはどっちに転ぶと思うか、ということなんです」
たとえば「安全よりリスク」。従来の大企業は、新規事業への投資に当たっては、安全をなにより重視する。ある企業では、伊藤穰一氏のプロジェクトの一つに六〇万ドル投資すべきかを判断するために三〇〇万ドルかかったそうです。安全を重視したがゆえに、六〇万ドルの損失を出すかもしれないというリスクをはるかに超える損を出す不合理さ。これが現代です。
その一方、リスクを厭わない企業は、どうなるのか。先進諸国の部品工場と化している中国の深センは、まがいものを製造する一大センターとなりましたが、小回りの効く工場群はリスクを恐れず、さまざまな商品を生み出します。遂には品質と耐久性が飛躍的に向上し、本家に肉薄するまでになりました。かつて恐竜は滅びたが、カエルは生き延びてきた。恐竜化しつつある大企業は、「カエルのように考え、行動するようにすべきなのだ」。
この書に通底しているのは、「教育よりも学習を重視する、という概念だ。学習は自分でやることだ、というのがわれわれの主張だ。教育はだれかにしてもらうことだ」という信念です。読者のあなたも、この書によって教育してもらうのではなく、この書を素材に学習する機会を得られますように。