妻の美咲が口を聞いてくれなくなって3日。平静を装いつつ会社に通い続ける夫の誠だが、理由もわからないまま月日は流れ――。

 集英社のノンフィクション編集部サイト「よみタイ」で最新話が更新されるたび、「うちの家庭を覗かれているみたい」とネットを騒然とさせたコミックエッセイ『妻が口をきいてくれません』が11月26日に発売された。そこで、著者の野原広子さんに、連載の経緯や40歳を過ぎてデビューすることのメリットなど前後編に渡って話を聞いた。(全2回の2回目/第1回を読む)

『妻が口をきいてくれません』(集英社)より

40代でデビューすることのメリット

――野原さんは子育てを経て、40代でデビューされていますよね。もともと本やマンガを読むのが好きで、誰かに影響を受けたりとかはありますか?

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野原 それが、子育て時期は忙しすぎて、3年ぐらいテレビも見なかったし、マンガも読めなかったんです。やっと何か読もうと思った時、片頭痛もあって、苦しくて、描き込んであったり、熱かったりの普通のストーリーマンガが読めなくて。

――家事や育児の合間に15分ぐらい読んで、数時間おいてから続きを読むとかだと、複雑な物語を読むのはしんどいですよね。「あれ、この人誰だっけ?」みたいな。

野原 その時、読めたのが『クレヨンしんちゃん』やコミックエッセイだったんです。それからちょこちょこ読むようになって、自分にも描けるかもしれないな、と。

妻が口をきいてくれません』(集英社)

――若い頃からマンガを描きたいというモチベーションはあったんですか?

野原 実は21歳から25歳ぐらいまで10作ぐらい少女漫画を描いていたんです。だけど、「マンガを描くことは、なんてめんどくさいんだろう」と、子供を産んだタイミングで止めてしまって。

 その後、1作だけのつもりで描いたら、編集さんに「作品を作るのって楽しいですよね!」とキラキラした笑顔で言われて。「そっか、これって楽しいことだったんだ」と40代になって改めてインプットされて、マンガを描き続けています。昔に比べて絵は単純になりましたけど。

――そうだったんですね。シンプルな線ですが、この流れにはこの表情しかないって顔が置かれていますよね。寝ている美咲が誠に手を握られて、「カッ!」となるところとか。

野原 目とか点々だし、これでいいのかなと思いつつ描いていたので、よかったです。少女マンガは目が物を言うとかいうじゃないですか。皆さん、本当にちゃんと描いていらっしゃるので。

『妻が口をきいてくれません』(集英社)より

――40代でデビューして、よかったことは何ですか?

野原 自分を客観的に見れるようになってから描ける、ということでしょうか。自分に出来ること、出来ないこともわかってくるので、求められるなかで出来ることを一生懸命やるだけです。

 あと、描く上で心掛けていることがあって。私の本は、描こうと思えばいくらでもジメジメした方向に振れる内容ではあるんですけれど、それぞれの事情を抱えて読む方も多いと思いますので、あえて簡単に、読む方が疲れないように描きたいと思っているんです。