「文藝春秋」11月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年10月23日)

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 “新型コロナ陽性”で入院したトランプ大統領は、3日後に退院して「コロナを克服した」とアピールした。「本当は感染してないのでは?」とフェイク説まで流れたほどのスピード回復。医師団がトランプ大統領に投与したと注目された薬が「レムデシビル」と「デキサメタゾン」だった。

 レムデシビルは、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤で、もともとエボラ出血熱の治療薬として開発されたもの。デキサメタゾンのほうは、過剰な炎症を抑える副腎皮質ステロイド薬で、重症化を抑え、致死率を下げる効果が認められている。

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 日本では、レムデシビルが5月に、デキサメタゾンは7月に、それぞれ新型コロナの治療薬として認められている。7月にピークを迎えた感染拡大の第二波では、重症者や死者が第一波に比べて格段に減った。それは、この2つを用いた効果的な治療法が確立したおかげ、と国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は話す。

忽那賢志氏(国立国際医療研究センター 国際感染症対策室医長)

「こうした治療手順の確立が、第二波で重症化の数が減った大きな要因です。臨床現場の実感でいえば、春先なら人工呼吸器を挿管したはずの容体でも、夏以降は挿管を回避できるケースが増えました」

治療の効果は明らかに向上している

 国立国際医療研究センター(東京・新宿)は、駒込病院、墨東病院、荏原病院、豊島病院、自衛隊中央病院、聖路加国際病院と並んで、都内で新型コロナの患者を受け入れてきた病院の1つ。忽那医師はそのなかで国際感染症センターの国際感染症対策室医長を務める。10月放送の『情熱大陸』(毎日放送)でも、密着取材を受けた感染症専門医だ。

「あくまで現場の印象ですが、治療の効果は明らかに向上し、重症者の割合が比較的多い当センターでも6月以降に亡くなった患者さんはいません。その間に100人近くの感染者を受け入れながらも死者ゼロが続いています」

国立国際医療研究センター

 もちろん、効果的な治療薬が見つかったといっても、完壁に治せるわけではない。投与しても重症化するケースはあり、特に高齢者や基礎疾患がある人はそのリスクが高く、楽観視はできない。

 また、忽那医師は「発症から時間がたつと治療薬の効果が低くなる」と指摘している。若くて基礎疾患がない人でも、発症から1週間ほど経過すると、レムデシビルを投与しても悪化することがある。感染がわかったら、できるだけ早く治療を受けることが重要だ。