騙しムジナとキツネ憑きの熊
山形県南部、朝日連峰に囲まれた朝日村(現・鶴岡市)の大鳥池には、体長2~3メートルと言われ、今も生態が謎の巨大魚・タキタロウが棲む。
ここでは「騙しムジナ」が語られている(ムジナ=タヌキ)。
タヌキを仕留めて皮を剥ごうとすると、突然起き上がって逃げる。皮を剥いだのに逃げ出すタヌキもいる。
同様に「キツネ憑きの熊」がいる。マタギが追い詰めても逃げてしまう。数日かけて追い詰め、銃口を向けた瞬間、森に吸い込まれるように姿が見えなくなる。
「そういう熊が時々いてなぁ どうしても捕まえられねえ」
日本の山には説明のつかない怪異が存在する
朝日村で知られるキツネの話がある。
冬、ウサギ狩りに出た数人がそれぞれ収獲を持って集落へ戻った。1人が無線を忘れ、カンジキを再び付けて山へ入り、戻らなくなった。一晩で雪が60センチ積もり、大掛かりな捜索も叶わなかった。その年は雪が多く、それ以上探すことができなかった。雪が解けた5月、リュックを背負い、銃を肩に掛けたまま座った姿で見つかった。集落のすぐそば。誰もが一目置くマタギがこんな近くで遭難するはずなかった。
ウサギが入っていたはずのリュックは空になっていた。ウサギを狙ったキツネに化かされて道に迷ったのだ――集落ではそう考えられている。
これは10年ほど前の話である。
(「鶴岡市朝日地区」より)
漫画を描いた水墨画家の五十嵐晃氏が話す。
「過酷な自然、動物たち、死生観……墨絵ならではの世界で、どんどん風化していく山人たちの貴重な話に誘います。日本の山には説明のつかない怪異が存在する。時の流れが速すぎる現代で、忘れかけた何かを感じてもらえれば嬉しいです」
第3弾は2021年2月発売予定という。