「ロッテより弱い」発言の“真相”
このシリーズ、私は7戦全てを取材している。囲み取材で加藤のセリフを聞いて「大胆不敵な男だなぁ……」との印象を抱きはしたが、「巨人はロッテより弱い」という発言は耳にしていない。
しかし、翌日の読売新聞(89年10月25日付)には加藤のコメントが次のようなかたちで掲載されたのだ。
〈今の巨人ならロッテの方が強い。このチームに負けたら西武、オリックスに申しわけないよ〉
朝、この発言を目にした巨人ナインが激怒したのは言うまでもない。加藤はなぜ、あえて人を怒らせるような発言をしたのか。それとも発言自体が“創作”なのか。
ここは本人に確かめるしかない。
「正直に言います。(囲み取材の際)近鉄担当のある記者が“ところで哲ちゃん、実際のところ、どうなん?”と聞いてきたんです。僕は答えました。“桑田、斎藤、槙原(寛己)、水野(雄仁)……。あれだけ、ええピッチャーがおったら、そりゃ優勝するで”と。“じゃあ、打線は?”と水を向けるもんやから、“ピッチャーはスゴイけど、打線はアカンなぁ”と言うたんです。
だって、そうやないですか。あの年、巨人で一番打っていたのが(ウォーレン・)クロマティ。3割8分近く(3割7分8厘)打っていた。そこでビデオを観たら、まぁ、アウトコースの低めにチェンジアップさえ投げておけば、センター前かライト前ヒットですむなと。“それやったらとりあえず打たせとこ”と。次のバッターにヒットが出て“1、2塁ですむやろ”と。これは三番の篠塚(利夫)さんも一緒なんです。ヒットはあっても大きいのはない。(ランナーになっても足が遅いので)置き物と一緒ですわ。
じゃあ、他のバッターはどうか。原さんは調子が悪いし、駒田さんは当たるも八卦みたいなバッター。岡崎さんいうてもシーズン中に3割打っているわけではない。そりゃ、石毛(宏典)さん、辻(発彦)さん、秋山(幸二)さん、清原(和博)、(オレステス・)デストラーデと並ぶ西武のほうがはるかに怖かったですよ。
そんな話をしているうちに、“(巨人は)ロッテより弱いんちゃうの?”という質問が出た。僕は“そりゃ、ロッテに失礼や”と言うたんです。だって同じリーグでフルシーズン戦ってきた相手に対し、口が裂けてもそんなことは言えへん。あの頃のロッテは4年連続Bクラスではあったけど、(マイク・)ディアズという四番がおり、五番の高沢(秀昭)さんも元気やった。トップバッターは今の監督の西村(徳文)さんで、3割近く打って、盗塁も40~50個決めていましたからね。また二番にはしぶとい水上(善雄)さんもおって、息が抜けなかった。
それで、“どっちが怖いか言うたら、ロッテのほうやな”と答えた。それが、“巨人はロッテより弱い”になってしまったんです。だから新聞に出ているようなことは絶対に言っていません。ただ、“まぁ、それに近いことは言うたわなぁ……”とは思っています」
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その後の巨人4連勝の内幕やチームメイトの証言など、この記事の全文は『プロ野球「衝撃の昭和史」』(文春新書)に収録されています。