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在来種のサトイモ「相馬土垂」を求めて

 菊地さんは、福島県の伝統野菜のデータを調べ、相馬には、「相馬土垂」という在来種のサトイモがかつてあったことを知る。しかし、菊地さん自身は見たこともなかったし、現在、つくられているかどうかも不明だった。現物があるかすらわからなかったのだ。

 

 2015年のある日、人づてに、つくっていた人がいるという情報が入ってくる。すぐにその生産者を訪ねてみると、「おしかった。ちょうど1年前までつくっていたんだけど、もう捨ててしまった」と言われた。その人が「相馬土垂」の最後の生産者だったのだ。

「何年もかけて探していたので、がっくりでした。でも、すぐに、あ、この生産者に相馬土垂を見せれば、そのサトイモが相馬土垂であるかはわかるんじゃないか、と思ったんです。先祖代々育ててきたサトイモとしか知らず、実は相馬土垂だったというのもあるんじゃないかと思って。それで、相馬のあちこちの農家や家々を回ってサトイモを集めたりして探し、その最後の生産者に畑まで来てもらって確認してもらったら『これが相馬土垂だ。たいしたものだ。よく見つけ出したな』と言われた。嬉しかったですね」

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しかし評価はさんざんだった……

 このタネ芋をもとに、菊地さんは在来種「相馬土垂」の生産に乗り出す。形はラッキョウのようで粘り気が強く旨味のあるサトイモだった。にもかかわらず、いつしか廃れたのは、他のサトイモに比べて皮が剥きづらいという程度の理由だった。そんなつまらない理由のために伝統野菜がなくなっていいのかと、菊地さんは、憤慨した。

 しかし、志高くつくり始めた「相馬土垂」の評価は、さんざんだった。

「地元の人の伝統野菜を守ることへの意識が高くなくて、『そんなことをやって、何の意味があるの?』という反応でした。値段も普通のサトイモと同じでしか取引できないと言われたり。黒いマルチシートもかぶせず、無農薬で草刈りしながら手間暇かけて育てているのに、そこがまったく評価されなかった」