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“奇跡のどぶろく”醸造家が激しい危機感「日本の米づくり・酒づくりが危ない」

佐々木要太郎・インタビュー#1

2020/10/03

 岩手県遠野市にある一軒の小さなオーベルジュ「とおの屋 要」が世界中から注目を浴びている。内外のシェフや日本酒の蔵人、ソムリエら、ここ数年、見学者が絶えない。

 提供されるのは、自家製どぶろくと発酵料理。受け入れる客数は一日最大6名まで。

 つくり手は、佐々木要太郎、39歳。

自身の田んぼの前に立つ佐々木要太郎さん ©文藝春秋

◆◆◆

一人5役の理由は……

 佐々木は、毎朝5時には近くの田んぼに出る。そして、宿に戻り、朝食の準備。宿泊客を送り出したあと、また少し離れた別の田んぼでの作業に入る。その後、宿の裏にある酒蔵でどぶろくのチェックをすませ、発酵食の仕込み、夜の食事の準備と作業は止まらない。
 佐々木の一日が分刻みなのは、人任せにせず、すべて自ら動き、現場に行かないと気が済まないからだ。

「経験してみないとわからないことだらけ。机の上の理屈と現場の実際では違うんです」

自家製どぶろくと発酵料理が売りの「とおの屋 要」。受け入れる客数は一日最大6名まで ©文藝春秋

 オーベルジュのオーナーであり、農業家であり、どぶろく造りの蔵元であり、発酵の探求者であり、凄腕の料理人。

 そんな多面的な佐々木要太郎をくくり、突き動かす原点にあるのは、米だ。米づくりを軸にすべては動いていく。どぶろくの原料も米、発酵のスターターとなる「腐れ飯」も米だ。ともに無農薬無肥料の米と遠野の空気だけで醸していく。

「僕が目指しているのは、米の可能性の追求。さらにその根底にあるのは、土の改善で、そこからどういう米が出てくるか、に光を当てている。米が持つ可能性を徹底的に引き出して世界に発信していく。どぶろくづくりも発酵料理もその一環なんです」

「とおの屋 要」の玄関口 ©文藝春秋

 佐々木が最終的に目標とするのは、日本全国の田んぼを無農薬無肥料化することだ。

 このドン・キホーテ的ともいえる目標に向かって佐々木は寝食を忘れてひたすら突き進む。

「全国、いろいろな土地に行って、見てきて、うわー、うちよりもここだったらもっと早い段階で自然栽培で米をつくれるようになるのに、という地域もあった。でも、それが生かされてなくて、ヘタすれば、もう、放棄地みたいになっていたりする。遠野である程度できて人に任せられる段階になったら、また新たな土地に行って、土から変えていきたいと思っています」