「日本人が米に対して食味、甘味を求めるようになった結果、品種改良のときにもち米の遺伝子を組み込んでいったんです。そこで、新米尊重という文化ができた。日本だけなんですよ、穀物で獲れたての新米に高値がついて、そのあと下がっていくというのは。ヒントをくれたのは、曾祖母。自分で収穫した米は、天日干ししたあとは1年間寝かせて食べていたそうで、そのほうが美味しかったと聞かされていた」
「在来種の古米」という現代に流通している米とは真逆の米を佐々木はつくろうとしているのだ。
佐々木は、「たぶん、全国でうちの米のクオリティを上回る米ってそうそうないと思う」と「遠野一号」に絶対の自信を持つ。
「日本の農業はクラッシュする」
佐々木が生き急ぐのは、いま、日本の農業、とりわけ、米づくりが危い段階にさしかかっているからだ。佐々木は、そこに激しい危機感を抱く。
「このままいったら、日本の農業は100%壊れる、クラッシュしますよ。あっという間に世界に追い抜かれると思います。なぜかと言うと、もともと大規模にやっていた日本の米農家さん、日本では商売にならないと、東南アジアに出て行ってしまっているんで。結果、中国につけいるスキを与えて、日本にばんばん入られている。水が湧いているところは、田んぼだろうが、山だろうが入ってきて、いま遠野も入られています。資本力があるので、酒蔵だって、あっという間に買われちゃう。中国の参入は怖いです」
変革者・佐々木のエネルギーは、農業者としてだけでなく、どぶろく造りの醸し人として、いち料理人として、そして、「発酵の魔術師」としても至るところに注がれる。米づくりで農地に立ち、スペインをはじめ世界のレストランからも求められるどぶろくをつくり、発酵を駆使した繊細な料理を生み出す力。佐々木が玄人から高く評価されるのは、その地に足のついた取り組みである。
日本の農と食のリーダーになりつつある佐々木要太郎の人生を少し辿ってみる。