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“奇跡のどぶろく”醸造家が激しい危機感「日本の米づくり・酒づくりが危ない」

佐々木要太郎・インタビュー#1

2020/10/03
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「古米」という言葉をなくす

 佐々木の米づくりに向けられるエネルギーは半端ない。消滅して久しい遠野の在来種「遠野一号」の種を自ら集めて播いて、徐々に田んぼを増やしていき、18年たったいま、佐々木のつくる米はすべてこの昭和2年に生まれた伝統品種となった。もちろん、100パーセント無農薬無肥料でつくった米だ。もし、佐々木が手をつけなければ、ほどなく、完全に絶えていたという品種だった。

無農薬無肥料で育てる「遠野一号」 ©文藝春秋

「遠野の人間が、遠野で生まれ育ったお米で、遠野の土地で育てるのはいいだろうと単純に思って始めた。ただ、遠野一号は暑さに弱いんです。冷害には強いんですけど。また、分蘖の数が少なく、収量がとれない。食味としても淡泊すぎて人気が出ず、消えようとしていたんです」

 しかし、その廃れんとしていた「遠野一号」と収穫したばかりの「あきたこまち」の食べ比べをしてもらったところ、10人中10人が「遠野一号」のほうが甘い、と評価したのだ。実は、「あきたこまち」は秋に収穫したばかりの新米で、「遠野一号」は1年間寝かせた去年の米だった。

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「収穫したときの遠野一号はさっぱりした味なんです。それを寝かせることによって、アミノ酸の数値は間違いなく上がっていって、寝かせた遠野一号のほうが旨いと評価された。ひとめぼれとかあきたこまちは、収穫時がピークで、その後、糖質が劣化・酸化していく。逆に遠野一号はどんどん時間とともに旨みが上がっていくんです」

夕餉の〆は遠野一号の雑炊 ©文藝春秋

 

 佐々木がなくしたいのは、「新米」に相対する「古米」という言葉だ。

 米に対する常識をも変えようとしている。