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相馬の子どもたちに食べてもらいたい、育ててもらいたい

 菊地さんの中では、相馬の子どもたちにこの地元の野菜を知って、食べてもらいたい、さらには一緒に育ててもらいたいという思いが強かった。

「震災後、子どもたちを土に触れさせたくないという親御さんたちがいっぱいいた。放射能のこともあって、昔、学校でよくあったジャガイモ掘りサトイモ掘り体験が一気になくなっていた。でも、僕は、子どもが土に触れずに育っていくのはよくないと思ったし、この相馬土垂がもう一度土に戻るきっかけになれば、と思ったんです」

 その後、菊地さんの思いは、少しずつ広がっていく。

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 2年前からは、相馬市内の学校給食でも味噌汁の具材などとして出されるようになった。地元の小学1年生が春に「相馬土垂」を植え、10月末に収穫する行事も定着した。お遊戯会では、劇「相馬土垂物語」が演じられたり、徐々に地域に浸透し始めている。

 

 ただ、その一方で、地元飲食店からの反応は相変わらず鈍い。

「地元のレストランにも働きかけているんですけど、値段が高いとか言われちゃう。地元旅館とかにもお願いしているけれど、在来種という伝統野菜の付加価値や物語が理解してもらえないんです。地元を盛り上げ、その土地を守るという意味で、地元にしかない野菜を使うというのは面白いと思うんですけどね」

きっと理解してくれる人はいる

 菊地さんが主宰する「大野村農園」では、鶏卵も生産している。鶏たちにストレスのかかるケージ飼いではなく、環境やアニマルウェルフェアに配慮した平飼いの卵だ。エサは、コメ、野菜、豆、草、魚などすべて自然由来で、雑草も食むから、まるで違う卵が産まれる。

「これも、最初は、1パック780円で売ると言ったら、周りからは『頭おかしくなったのか。そんなの売れるはずがない』とさんざんバカにされました。でも、いま、めちゃくちゃ売れています」

 

 菊地さんは、相馬土垂でもきっと理解してくれる人はいる、と諦めていない。実際、地元の若い生産者も出始めた。

「相馬土垂を知って、やってみたいと名乗りをあげてきてくれた次世代の農家の人には、タネを譲って、応援しています。飲食店さんがいい値段で買ってくれれば、次の世代の農家もやろうという気になると思うんです。東北では芋煮会が盛んなんですけど、いまの若い世代はあまりやらなくなっている。そんなところでも、相馬土垂を軸にして再び地元を盛り上げていきたい。せっかくギリギリのところで復活した在来の作物を絶やしちゃいけないと思っています」

写真:三宅史郎/文藝春秋