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2020/12/03

 様々な機能が拡張されたテレビで彼女が気に入ったのはYouTube視聴だった。文字入力での検索が得意ではない彼女のために検索をかけ、台湾の民放テレビ局が公式で運営するYouTubeチャンネルを表示させた。

 検索機能を利用したのはその最初の一回だけで、それ以降はすべて本人のリモコン操作のみ。ひとつの動画が観終わると「おすすめ」に出てくる動画を選ぶ、あるいは放置しておくとYouTube側が選んだ動画が自動で再生される。

 落とし穴はそこにあった。

もともと親トランプな台湾メディア

 もともと台湾メディアは大手を含め親トランプが多い印象はあった。まず任期中、台湾に対する複数回に及ぶ武器の売却があった。また中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税を重くかけることでプレッシャーをかけようとした。香港の実情をみれば、メディアに限らず台湾の人々からトランプの姿勢にある程度の支持があるのも頷ける。

 僕からするとアメリカ国内の製造業に従事する人々の支持を得るためのパフォーマンスではないのか、とか、そもそもコロナ直前までアメリカの対中赤字はどんどん増えてた気がするな、とか、いろいろ思うことはあるのだが、まあでも理解に苦しむ、というほどではない。そもそも僕が民主党やバイデン候補を支持しているわけでもないので、やはりこれもたいした問題ではない。

2020年の米国大統領選関連報道を確認する台湾の若者 ©getty

 リモコンを操作してYouTubeの履歴を過去から観てみると、ずらりと並んだ放送局の公式ネット配信のサムネイル画像の中にいくつか別の動画が混ざっていることに気付く。情報番組を模してはいるが、テレビ局の番組に比べると若干質素なセットのものや、あるいは書斎のような部屋で男性が一人で熱弁をふるうタイプのもの。

 いくつかを視聴してみた。台湾の公用語は北京語(中国語)だが、政府によって強く規制されていた過去に比べると現在は台湾語の復権がみられ、テレビで台湾語を話す人も増えた。台湾人に囲まれて育った僕にとっては子供の頃から聞き慣れた言語ではあるが、さすがに政治の話を早口でまくしたてられると理解が追いつかない。しかしテロップやそこで扱われる画像からトランプを極端に支持する内容であることは伝わってくる。

 どの動画にも共通しているのは話者がとにかく「怒っている」ということ。台湾人はもともと日常からして言葉のテンションと圧が強めなのだが、それにしてもこのテンションでまくしたてられたらどんな内容でも危機感を感じてしまいそうだ。

 どうやら彼女に影響を与えているのはこれらのYouTubeチャンネルのようだ。

 誤解してほしくないのは、インデペンデントなネットメディアや個人の言論チャンネルが悪いと言っているのではない。こんなことを書いている僕だって自分のスタジオから毎週好き勝手しゃべるだけの番組をYouTubeで運営している。

 マスメディアが正しく、個人メディアが間違っている、とか「書斎でおじさんが一人で喋ってる動画は危ない」と言いたいわけではない。いや、正直にいうと「書斎でおじさんが一人で喋ってる言論系の動画」は各国共通してヤバいな、と内心ちょっとだけ思ってはいる。

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