「大統領がトランプに決まりました。」

 スタジオでレコーディングを終えた直後、LINEでこの唐突なメッセージを受けとったのはほんの1週間前のことだ。メッセージの差出人は70歳になる実母。「やれやれ、またか」という気持ちでメッセージを閉じる。台湾人として生まれ、現在では日本国籍も持つ彼女がアメリカ政治において共和党を支持しようが、民主党を支持しようが、それ自体は僕たち親子にとってたいした問題ではない。

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 話を聞くとアメリカの大統領選ではバイデン、民主党陣営による大規模な不正が行われ、州によっては開票箱から死者の票が出てきたり、実際の州の人口を超える投票が行われたという。事実であればこれは大変なことだ。集計時に使用されたドミニオン社製の投票機では不正操作があったのだとか。

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 だが僕が普段目にしている一般的なメディアではそのような報道を目にしたことは一度もなかった。唯一芸人のほんこん氏がそのような話題をテレビで真顔で話している動画を観たことがあったかもしれない。

 だがいくら大統領選挙の結果を巡って混乱が起きているとはいえ、「トランプに決まった」はさすがに社会全体の認識との乖離が過ぎるのではないか。こうして原稿を書いている今も再集計後のウィスコンシンやアリゾナではバイデン前副大統領の勝利が認定され、政権移行が進んでいるところだ。

 それではこのコロナ禍にあって黒字決算を重ねる会社の優れた経営者であり、女手一つでこの僕を育ててくれた愛する母に認知症の兆候があらわれたのだろうか? いや、それ以外の普段の言動を考えると、とてもそうは思えない。どうやらネット上の選挙不正を訴える情報や一部の陰謀論的なものに感化されてしまったらしい。だが彼女は自分専用のPCは持っていない。

 ではなぜ?

母の自宅に導入した小さなストリーミングデバイス

 原因は彼女の自宅のテレビに僕が設置した小さなストリーミングデバイスにあった。彼女がそこで触れている動画に手がかりがあるに違いない。

 大手ECサイトAmazonが売り出したこの手のひらサイズの機械は、HDMI端子に繋ぐだけで自社サービスであるAmazonプライムやNetflixなどの動画、各メディアが独自で行っているニュース配信などをリモコン一つで観ることができる大変便利な代物だ。個人的にもリビング、寝室、自分のスタジオなどテレビというテレビに取り付けてある。

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 民放や録画番組を観る延長で世界中の情報に触れることができるのだからPCやスマホに疎い高齢者にも優しい。彼女が与えてくれた教育的機会の恩恵を十分に受けながら、その期待を裏切り音楽業界に進んだ僕が手軽にできるせめてもの親孝行である。

 思えば冒頭のような「知らせ」をLINEで受け取ることができるのもスマホへの機種変からアプリのダウンロード、アカウント設定まで手取り足取り教えたおかげなのだ。先日もAIスピーカーを勝手にリビングに設置し、声をかけるだけで天気を調べたり、時間を計ったり、メッセージを送ったりできるんだぞ、と興味のなさそうな彼女に自慢げに説明したところだ。