司法書士の太田垣章子さんは2200件以上の「家賃滞納」の現場を見てきた。そんななかで近年目立つのが、就職氷河期世代の家賃滞納だという。

 就職氷河期世代は、バブル崩壊後のあおりで新卒時に正規の職に就けず、不安定な非正規労働を続けざるをえない人々。主に1993年~2004年ごろ高校や大学を卒業した人を指し、現在30代半ば~40代半ば。00年春卒で、大卒求人倍率は0.99倍(リクルートワークス研究所)、その後も低迷が続いた。

 彼らが不安定な収入状態のまま高齢化すれば、生活保護受給の増加など社会保障費が膨らむという懸念がある。太田垣さんにそんな就職氷河期世代の家賃滞納ケースを紹介してもらった。

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「ご実家に戻られたらいかがでしょうか」「それはない!」

 41歳、独身男性。8万円の家賃の支払いは遅れがちになり、ここ3カ月近くまったく支払われていません。トータルですでに24万円ほどの滞納状態でした。

 滞納者の加藤巧(仮名)さんと初めてコンタクトがとれたのは、内容証明郵便を送った翌日。受け取ってすぐに電話してこられたので、真面目な人なのでしょう。

「転職しようと思ったら、思いのほか、次の仕事が見つからなくて」

 仕事をしていないのに、切羽詰まった感は窺えません。ただ声に元気はありません。緊急連絡先がお母さんになっていました。実家も近くです。

「一度ご実家に戻られたらいかがでしょうか」

 そう言うと、間髪を容れず「それはない!」と語気を荒らげます。このような反応をされる方は、ほぼ間違いなく親子関係が悪い状態です。だから親を頼らない、頼れない……。 巧さんは、超就職氷河期世代。その年の求人倍率は1倍を割っていました。加藤さんはこんな風に振り返ります。

<ただでさえ就職が厳しい環境の中、通っていた大学の偏差値も高い方ではありません。エントリーしても、面接までもこぎつけられませんでした。

「就職が決まらなくてご近所にも恥ずかしくて。顔を上げて外を歩けない」

 母親が電話で愚痴っているのを耳にしたとき、胃が下から押し上げられるような感覚に陥りました。

 恥ずかしい……ふざけるな。こんな俺を産んだのは、おまえじゃないか。そう思ったとたん、1日でも早く家を出たいと思いました。>