1点1点の仕入れと陳列
スペースにも仕入れにも限度があり、人気作品をドカンと展開するような売り方はできないが、文芸書も文庫も、例えば本屋大賞ノミネート本や映画化・ドラマ化作品など、売れ筋商品はきちんと並べている。陳列でも限られた棚のスペースを使って、2冊差し、面陳(表紙を正面に向けた陳列)、平積みなどのアクセントをつけて、目を引くように工夫している。置ける商品数には限度があるが、奥行きの浅い棚にみっちり詰まっている感じがして、充実感がある。自分の好みの問題なのかもしれないが、「これは」という作品や気になっている作品がきちんと入っていて、ここで買えばハズレを引かない感触がある。
発行部数が少なく、単価も高い外国文学や人文書は、意図的に仕入れないとなかなか入荷しない。過去の販売実績を評価されて常備在庫を持っていたり、新刊が定期的に入荷したりする出版社もあるが、幸福書房を特徴付けている外国文学や人文書の棚の商品の多くは、「神田村」の取次に通って仕入れたものだ。それぞれのジャンルに強い専門店で、お客様の顔や現在の棚、最近の売れ筋を思い浮かべながら、個性的な出版社の個性的な本を仕入れてくる。
中小書店の廃業や取次の倒産のニュースが伝えられる。以前は、取次の駐車場で待ち合わせて、一緒に仕入れに回りながら、「昨日は売れたね」、「この本が人気なのでちょっと仕入れておこう」、と情報交換する町の本屋さんがたくさんあったが、廃業したり、世代が変わったりして、仲間も減って、さびしくなった。幸福書房は、比較的書籍比率が高く、雑誌市場の縮小の影響をあまり受けずに済んだというが、単価が高く、雑誌やコミックスに比べると回転率が低い書籍を売っていくのは、覚悟が必要だ。1点1点仕入れるためには、手間も商品知識も資金も必要だ。それでも、「意志を持って書籍を売る店にしたい」と岩楯店長は言う。