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幸福という名の本屋 代々木上原・幸福書房の店主の笑顔

2016/04/09

genre : エンタメ, 読書

 本の作り手=作家と、本の売り場=書店の関係について考えたい、ということで、新刊小説『ビューティーキャンプ』、エッセイ集『マリコ、炎上』が刊行されたばかりの林真理子さんのファンが全国から集まるという、代々木上原駅前の幸福書房に取材にうかがった。作家の地元書店に集まるファンという切り口で取材するつもりだったが、お店がとてもいい。ごくごく小さな町の本屋さんだが、品揃えも陳列も工夫されていて、長時間いても飽きない。店長の岩楯さんのお話をうかがうと、まず、この本屋さんの魅力を伝えねばという気持ちになった。

代々木上原駅前の幸福書房。
ごく小さな店舗。

 幸福書房は年中無休、朝8時から夜11時までの営業、岩楯店長と奥様と弟さんの3人で切り盛りしている家族経営の本屋さんだ。

 8時にシャッターを開けると、まず、雑誌を出す。日々新しい商品が入る比較的回転率の高い雑誌は、生鮮食品のようなもので、岩楯店長は、八百屋みたいなものだという。高級住宅街の広がる土地柄か、売れる雑誌は『家庭画報』や『和樂』などだそうだ。書籍メインの店作りをしてきたため、この規模の書店としては雑誌の比率が低く、コミック誌やパズル誌、ファッション誌などはあまり扱っていない。コミックスが強い駅ナカの文教堂代々木上原店との棲み分けもあるのだろう。

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 雑誌の品出しが終わると、今度は店内の商品の補充だ。取材の日は、奥様がレジを担当している間、岩楯店長が棚にその日に入荷した商品を補充、弟さんは、メインの取次であるトーハンと、「神田村」という中小の取次が集まる神保町に仕入れに行っているという。配本(*)によって送られてくる本を待っているだけでは、個性のない本屋になってしまうという危機感がある。

(*)配本:取次が書店の規模や実績に応じて出荷する数量を決めるシステム。
取次におまかせなので、発注の手間はかからない。POSレジの分析などで精度は上がっているものの、個々の店の棚やお客様に合わせた、きめ細やかな対応は難しい。

店頭の雑誌、朝8時にシャッターを開けて陳列。
毎朝のメンテナンスが棚を作る。

 営業は夜11時まで、遅番担当のときは、夕方の2~3時間、店のバックヤードで仮眠を取っているという。週1回は交互に休みを取るが、年中無休で早朝から深夜までという生活を続けている。35年間の毎日、ほとんどはてしない時間のように思われる。

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