平均月収を大きく上回る収入
最初の月に30~40ユーロの広告収入が口座に振り込まれた。サイトのファン数はやがて9万人に膨らみ、最大で月550ユーロ稼いだ。北マケドニアの平均月収は360ユーロ、ベレスでは200ユーロ程度とされるので大金である。
「罪悪感とかはなかったの?」と聞くと、それまで気弱な声で伏し目がちに話していたニコラはキッパリと言い切った。
「トランプのためにやったんじゃない。生きていくため、お金のためだった。善悪なんて関係ないよ。お金をくれるグーグルも、偽ニュースを喜んで読むのもアメリカ人じゃないか」
ニコラは16年末にサイトをやめた。大統領選が終わると収入が激減したことにくわえ「少し怖くなったから」だという。
その後は趣味でサッカーのファンサイトを運営しているだけで、収入源はなくなった。
「次のアメリカ大統領選を待っている」と、ニコラは取材の最後にそうもらした。
ウラジーミルが次に呼び出したアツェ(仮名)はカフェに腰を下ろすなり取材に応じる見返りを要求してきた。
「それで、いくらくれるんだ」
偽ニュースの温床と非難されたグーグルやフェイスブックが対策に乗り出したため、運営する偽ニュースサイトのうち1つが最近、グーグルの広告配信から遮断されたのだという。28歳というが、ふてぶてしい態度や体型からしておそらく年齢をごまかしている。
「前に取材に来たオーストラリアのテレビ局は200ドルくれたぞ」
「ただで記者と話すやつはこの街にはもういないぞ」
などとすごまれた。
こちらは「まっとうな記者はカネで情報は買わないんだよ。お金は払えない。サイトのことを教えてほしい」と押し通した。ウラジーミルがマケドニア語で何か語りかけると、アツェはやっとポツポツと話し出した。