センセーショナルな見出しで耳目を集めることだけを目的とした、悪質なフェイクニュースが跋扈するインターネット。SNSの普及は、それをさらに加速させており、政治、経済、さまざまな分野での悪影響は計り知れない。では、そうしたフェイクニュースはいったいどこで、誰が、どのようにして発信しているのだろうか。

 日本経済新聞社で国際部次長兼編集委員を務める古川英治氏が、ロシアを中心に各国の情報戦争の真相に迫った著書『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』を引用し、世界を動かすフェイクニュース生産工場、マケドニアの都市ベレスで行った現地取材の様子を紹介する。

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グーグル翻訳でデマ作成

 IRAの活動と並行して、フェイクニュース発信の拠点として名をはせた街がバルカン半島の北マケドニアにある。16年のアメリカ大統領選の際には100以上も乱立した政治サイトが偽情報を拡散し、トランプの勝利に一役買ったとされる。

 ここでもロシアの工作が絡んでいたのではないか――私の中にそんな思いが膨らんだ。若者らが偽情報を量産した現場では何が起きていたのか。真相を探るべく17年4月に現地へ取材に向かった。

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 北マケドニア(19年2月にマケドニアから国名変更)はユーゴスラビアの解体に伴い1991年に独立した人口200万の小国だ。日本人に馴染みがあるのは、古代ギリシャのアレクサンダー大王が築いた王国の発祥地域だったことだろうか。首都スコピエの中心部には巨大な大王の像が立つ。フェイクニュースの街はここから南へ50キロに位置する。

フェイクニュースづくりで潤う街

 春の日差しが暖かい山間の高速道路を抜けると、人口5万人足らずのベレスという街が現れた。平日だったが、目抜き通りに並ぶカフェは大勢の若者でにぎわっていた。フェイクニュースづくりで大金が流れ込み、街は潤っているようだった。

 実は今回は欧米メディアのベレスに関する記事に目を通しただけで、事前準備なしの「パラシュート出張」だった。街頭で若者に片っ端から声を掛ければ何とかなる、と高をくくっていたが、ベレス訪問初日はまったくの空振りに終わった。英語があまり通じず、会話がほとんど成りたたなかったのだ。公用語のマケドニア語は、ロシア語と同じスラブ系の言葉だが、私にはさっぱり分からなかった。「一体どうやって英語で偽ニュースが作成されたのか」という疑問がわくと同時に、このまま何もつかめないのではないかとの不安に駆られた。

 夕方に首都スコピエに戻り、英語が通じるホテルやカフェで通訳をしてくれそうな人を探し回った。パブで知り合ったホテルマネジャーがベレス出身で、現地の1人の若者と連絡を取ってくれたのは幸運だったとしかいいようがない。