文春オンライン

《現地取材》「知るか、コピーしただけだ」フェイクニュースを量産する男たちの本音と正体

『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』より

2020/12/10
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「儲け話があるぞ」と持ちかけられたデマ記事づくり

 ベレス取材2日目、通訳兼案内人のウラジーミルが革ジャンにくわえたばこといういでたちで待ち合わせ場所のカフェに現れた。「自分は反政府・反汚職デモのリーダー格としてテレビにも取り上げられた『政治家の卵』だ」と写真を見せながらしきりに売り込んできた。少しうさんくさいなとも思ったが、彼に頼るしかない。英語はでたらめだが、何とか話は通じる。

 取材の狙いを説明すると、「おれはフェイクニュースづくりはやっていないが、知り合いはいる」と言って、携帯電話で何人かに連絡を取り始めた。

 1時間すると19歳の小柄な若者、ニコラ(仮名)がカフェにやって来た。失業中のニコラは16年8月、友人に「儲け話があるぞ」と持ちかけられたと語り始めた。

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「アメリカ政治に関する英語ウェブサイトを立ち上げて、サイトに掲載される広告へのアクセスを稼げば大金を稼げると言われた。半信半疑だったけど、友人はサイトと多額の口座への入金を見せてくれたので、やってみることにした。彼にやり方を教わって、指導料に140ユーロも取られた」

 ニコラによると、仕組みはこうだ。サイトを立ち上げて、グーグルの広告配信サービスAdSenseに登録する。訪問者が広告をクリックするごとに報酬が得られ、指定した銀行口座に振り込まれる。フェイスブックなどにサイトのページを作り、記事のシェア数を増やせばサイトへのアクセスを膨らませられる。

コピーしたり、捏造したり…

 ニコラは片言の英語しか話さない。毎日4、5時間ネットを検索し、グーグルの翻訳機能を使って既存メディアや偽ニュースのサイトの記事を読みあさった。真偽も分からぬまま、受けそうなものをコピーしたり、自分で捏造した文章を翻訳機で英語にしたりして、毎日10本程度をサイトに貼り付けた。

©iStock.com

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 自分でつくったこんなでっち上げへのアクセスは数万に達した。「トランプは同性愛者」といった偽ニュースも発信してみたが、トランプに肩入れした記事の方が断然アクセス数を稼げたという。