示談書に含まれる内容とは
示談書には何が書かれているのか?
刑事事件の示談書は、複雑な事件でなければ1ページ程度の短い内容であることが多い。
示談書には、(1)事実の確認と謝罪、(2)示談金の金額といった内容に加え、(3)被疑者を許してもらうことができるのか、被害届を取り下げてもらえるのかといった「宥恕(ゆうじょ)文言」が含まれている。弁護士はこの示談書にサインをしてもらえるかを被害者に尋ねる。実は弁護士のカバンの中には、もう1通、宥恕文言がもらえなかった場合の示談書も念のために用意してある。
今回は、加害者による謝罪が通じたのか、あるいは別の事情によるのか、被害者は首を縦に振って示談書に宥恕文言を入れることに納得してくれた。
被害者からの質問
被害者から1点だけ質問があった。
「私の名前は本当に(被疑者に)伝わらないのでしょうか」
弁護士は、裁判所で被疑者の勾留の手続きを行う際に行われた、「勾留質問」の中で、被害者の名前が読み上げられているかもしれないという点については伝えた。ただ、示談書の中に書かれた名前については弁護士の方でマスキングをするので、名前や住所が被疑者に伝わる事は無いと約束した。
弁護士は、何も書いていない茶封筒に入った示談金を被害者に手渡し、その場で内容を確認してもらう。被害者が金額について確認すると、弁護士は、あらかじめ用意していた領収書にサインをしてもらい、領収書を引き取る。
その時点で時計は18時15分。およそ15分足らずの出来事である。
弁護士は、忙しい中仕事帰りに時間を割いてくれたこと、示談に応じてくれたことのお礼を伝え、改めて事件について被害者に謝罪する。頭を下げた後、弁護士はコーヒーには手を付けず、ドリンクバーの代金だけを精算し、足早にその場を去り、事務所に向かう。
事務所の時計は19時を指している。検察庁に示談書と領収書を提出するにはもう時間が遅いようだ。提出は明日の朝一番と言うことになろう。取り急ぎのファックスを検察庁に入れた後、弁護士は身柄拘束されている依頼者の家族の携帯電話に電話を入れ、示談が成立したことを報告する。