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昨年12月末、三浦さんが「感極まっちゃいました」と語った“あるシーン”

――大阪商法会議所(現・大阪商工会議所)の初代会頭として五代が商人たちに結束を訴えるシーンは、薩摩弁も相まって迫力の一言でした。

田中 昨年の12月末に編集が終わって、あのシーンでどうしても春馬君にアフレコしてほしいところがあってスタジオに来てもらったんです。「ここ、少しだけアフレコしたいんだけど」と編集したシーンを観てもらったら、向こうを向いて、顔をそむけてしまうんですよ。「春馬君、どうした?」と訊いたら、「なんか僕、この時の気持ちを思い出しちゃって、ちょっと感極まっちゃいましたよ」と。それほどまでに彼は、渾身の力を込めて作品に向き合ってくれたんだなって。

――お話を伺っていると、三浦さんは非常にストイックな姿勢で撮影に臨んでいたようですね。

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田中 それでいて、近寄りがたいムードがまったくない。誰に対しても分け隔てなく接するし、目線が一緒なんですよ。自然に気づかいできる人だし、それが素なんです。たとえば髷(まげ)を切るシーンは、脚本では「一戦交える」と書いてあるんです。でも、本番ではやっていません。僕はやらないほうがいいかなと思っていたんですけど、それでも迷っていた。そうしたら春馬君と相手役の俳優さんが僕のところに来て、「監督、ちょっと見てもらえますか」とそのシーンを頭からやりだした。そして、一太刀あるというところで「ここがどうもうまくいかないんです」と言うんです。

三浦春馬さん ©文藝春秋

「春馬君、一太刀せずにこの流れをやったらどういうふうになる?」と訊いたら、待ってましたとばかりに、「じゃあ、ちょっとそれやってみます」と言ってやってみせるわけです。そして、間髪入れずに「監督、これで腹に落ちました。これでやらせてください」って。

 つまり、「こうやったらできないので、こうやりましょう」とストレートに言ってしまえば済んでしまうところを、一拍おいて相手の意見もちゃんと受け入れたうえで「腹に落ちました」と返す。監督としての僕をきちんと尊重して、僕の指示や考えとして言わせてくれるわけです。そういう真面目さと、懐の深さというか、紳士的な振る舞いが、一緒に仕事をしていてとても心地良かった。座長として、主演として、作品を良いものにしようという責任感みたいなものを彼自身がしっかりと持っていたと感じました。

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