規則正しい日課で生活リズムを取り戻す
うつ病の場合、生活リズムを整えるのが治療の大原則。毎朝6時起床、ラジオ体操、そして朝食……という規則正しい生活が日課となります。しかし、不眠のため朝が辛い先崎さんにとって、この規則正しい生活が苦行となります。また、本や雑誌を読んでも、活字がまったく頭に入ってきません。
生きる屍のような「極悪期」が過ぎると、身体が回復してくる兆しをじ始めます。久しぶりにシャワーを浴び、さっぱりした後に食事をすると、麻痺していた味覚も戻ってきました。そして、あの生理的欲求がムズムズと──。「Hな動画が見たい…」。
お見舞いには「みんな待ってます」の一言を
ようやく入院生活にもなじんできた先崎さんは、それまで制限していた見舞い客との面会を始めます。懐かしい顔に会って楽しい半面、元気な人や声の大きな人と接すると、疲れてしまうことに気づきます。先崎さんの場合、いちばん嬉しかったのは「みんな待ってます」
という一言でした。
少しずつ回復を実感するようになった先崎さんは、アマ初段の看護師と対局をします。自分は本当に将棋が指せるのか、試してみたかったからです。ところが、実力的には決して負けるわけがない相手に、大苦戦を強いられます。
一方、テレビを見ていると、いままで白黒だった周囲の世界に色がつき、フルカラーになるという経験をします。治療の成果が現れてきました。
うつにとって散歩は何よりの薬
「うつにとって散歩は薬のようなものなんだ」
精神科医の兄の言葉を信じ、先崎さんは毎日、毎日、散歩を続けます。1日3時間くらいずつ、ひたすら外苑周辺を歩き続けました。気力が目覚めてきた先崎さんは、病院の廊下でシャドウ・ボクシングも始めます。本格的にうつとの闘いに向き合うようになったのです。
その後、一時外出の訓練を経て、先崎さんは無事退院することができました。入院期間は1カ月。先崎さんにとって人生で最も辛く、最も長い1カ月が終わったのです。
日常生活に戻った先崎さんは、後輩相手に将棋の稽古を始めたり、同世代の羽生善治さんと再会したりと、少しずつ自分と将棋を取り戻していきます。
しかし、復帰への道はまだまだ険しいものが……。続きは、コミック版『うつ病九段』でお楽しみください。