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規則正しい日課で生活リズムを取り戻す

 うつ病の場合、生活リズムを整えるのが治療の大原則。毎朝6時起床、ラジオ体操、そして朝食……という規則正しい生活が日課となります。しかし、不眠のため朝が辛い先崎さんにとって、この規則正しい生活が苦行となります。また、本や雑誌を読んでも、活字がまったく頭に入ってきません。

週刊誌を読んでも活字が頭に入らない。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 生きる屍のような「極悪期」が過ぎると、身体が回復してくる兆しをじ始めます。久しぶりにシャワーを浴び、さっぱりした後に食事をすると、麻痺していた味覚も戻ってきました。そして、あの生理的欲求がムズムズと──。「Hな動画が見たい…」。

生きる屍のような状態から回復の兆しが……。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

お見舞いには「みんな待ってます」の一言を

 ようやく入院生活にもなじんできた先崎さんは、それまで制限していた見舞い客との面会を始めます。懐かしい顔に会って楽しい半面、元気な人や声の大きな人と接すると、疲れてしまうことに気づきます。先崎さんの場合、いちばん嬉しかったのは「みんな待ってます」

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という一言でした。

入院中の先崎はこの一言に救われた。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 少しずつ回復を実感するようになった先崎さんは、アマ初段の看護師と対局をします。自分は本当に将棋が指せるのか、試してみたかったからです。ところが、実力的には決して負けるわけがない相手に、大苦戦を強いられます。

看護師との久しぶりの対局はハラハラドキドキの連続。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 一方、テレビを見ていると、いままで白黒だった周囲の世界に色がつき、フルカラーになるという経験をします。治療の成果が現れてきました。

モノクロの世界が色付きに変わった。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

うつにとって散歩は何よりの薬

「うつにとって散歩は薬のようなものなんだ」

 精神科医の兄の言葉を信じ、先崎さんは毎日、毎日、散歩を続けます。1日3時間くらいずつ、ひたすら外苑周辺を歩き続けました。気力が目覚めてきた先崎さんは、病院の廊下でシャドウ・ボクシングも始めます。本格的にうつとの闘いに向き合うようになったのです。

うつ病にとって散歩は何よりの薬。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 その後、一時外出の訓練を経て、先崎さんは無事退院することができました。入院期間は1カ月。先崎さんにとって人生で最も辛く、最も長い1カ月が終わったのです。

1ヶ月ぶりに日常に戻った先崎九段だが……。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 日常生活に戻った先崎さんは、後輩相手に将棋の稽古を始めたり、同世代の羽生善治さんと再会したりと、少しずつ自分と将棋を取り戻していきます。

将棋会館の「差し初め式」で再会した羽生から声をかけられた先崎は……。©先崎学/河井克夫/文藝春秋

 しかし、復帰への道はまだまだ険しいものが……。続きは、コミック版『うつ病九段』でお楽しみください。

うつ病九段

克夫, 河井 ,学, 先崎

文藝春秋

2020年4月24日 発売