このほど、トランスジェンダーである自らの来歴を綴った『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を上梓した杉山文野氏は、作家・乙武洋匡氏と15年来の交流を続けてきた。二人がともに訴えてきたのは、「世の中のふつうを疑う」ことである。LGBTQ、障害者、それぞれに潜む問題、課題を話し合った。
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乙武 文野と初めて会ったのは15年ぐらい前。今では、すっかりLGBTQのリーダーだね。でも、俺の中では当時と変わらない。あっ、少し髪が薄くなったかな。
杉山 さっそく、そのネタからですか(笑)。このたび出版された乙さんの小説『ヒゲとナプキン』(小学館)というタイトルは、当初、『ハゲとナプキン』だったという話ですね。
僕は男性ホルモンを打っているから、ちょっと頭髪が薄くなっている。そして子宮と卵巣の摘出をしていないので、生理になってしまう。「もうハゲたり、ナプキンだったり忙しいよ」と僕がいった言葉に乙さんが反応したという話です。
乙武 さすがに『ハゲとナプキン』というわけにもいかないので、『ヒゲとナプキン』としたわけだけど。
冗談はさておき、文野は日ごろから自分の境遇というか、特色をネタにしている。文野の新刊『元女子高生、パパになる』だって、ずいぶんと思い切ったタイトルだよね。自分の境遇をジョークにして、自虐的に笑い飛ばすのは、LGBTQへのハードルを下げるため?
「おまえは偽物だ」という批判
杉山 はい。でも、当事者から批判されることも多いですよ。
僕は、14年前に『ダブルハッピネス』という、最初の本を書きました。その感想として、「楽しそうに生きている文野君を見て勇気をもらいました」というものもあれば、「楽しいなんて、当事者が言えるはずはない」といったものもあった。
あとは、性同一性障害イコール手術みたいなイメージがあるのか、「手術しないなんておまえは偽物だ」とか。LGBTQに対してネガティブイメージしかなかったから、あえてポジティブな生き方を書いたつもりなんですけど。
乙武 その状況、本当に手に取るようにわかる。あ、手はないけどね(笑)。
俺自身も、22年前に『五体不満足』を出したとき、まったく同じことが起こった。そもそも障害者にまつわる本は、誰が書いたものであれ、いかに苦労してきたかというお涙頂戴ものか、権利主張型のものかどちらかだった。
誤解のないようにお伝えすると、権利主張型の運動をしてきた先人に対しては、俺は感謝しかない。そういう方々のおかげでいろんな制度が整ってきたり、物理的なバリアフリーが進んできたりという歴史を認めざるをえない。