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当事者からの声は賛同だけではなかった

乙武 だけど、自分がメッセージを発信しようと思ったときに、これまでの型を踏襲するだけでいいのかとも考えた。先人を否定するわけではない。けれども、オプションとして、新しいスタイルでメッセージを発信するタイプの人間が出てきてもいいのかな、と思ったんだ。

 そういう意味では文野がいま言った話はよく理解できる。俺のときも、「おまえはたまたま恵まれていただけだ」なんて反応があったことには心底驚いた。手足なく生まれてきて「恵まれている」と言われる日が来るとは……。

杉山 批判は、当事者の方からもあったんですか?

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乙武 うん。内訳でいうと9割8分が賛同。そこにはもちろん健常者もいれば、障害当事者やご家族もいた。でも残り2分の批判は、ほぼ100%が障害当事者かそのご家族だったかな。

 

乙武 さきほど文野の話で、「手術したがらないトランス(ジェンダー)なんて偽物だ」という批判があったよね。「偽物」という言葉はキーワードだと思う。

杉山 どういうことですか?

多様性を認めない“ダブルスタンダード”

乙武 本来、トランスジェンダーにしても、身体障害者にしても、それぞれの境遇は、社会に対して多様性を求めていく立場であるはずじゃない。でも、「これこれはトランスジェンダーじゃない」とか「自分の境遇を明るく語れる身体障害者なんて認めない」という声がある。こうした方は、トランスジェンダーや身体障害者の中に、多様性を認めないということだと思う。

 本来、社会に多様性をもたらそうという立場の人々が、自分たちのカテゴリーに多様性を認めないというのは、ダブルスタンダードでしょう。かえって、そうした境遇の方たちを一括りにしてしまう危ない発言じゃないかな。

元女子高生、パパになる』(文藝春秋)

 そもそもトランスジェンダーの方だって、一括りにできないわけだよね?

杉山 はい。トランスジェンダーというのは非常に幅の広い言葉です。皆が皆、手術するわけではありません。僕の場合、おっぱいは自分も見えるし、人からも見えるので、すごい嫌だった。これは耐えがたい苦痛でそれは取った。ただ、ホルモン注射を打てば生理はとまるので、体の中にあるものは日々の生活の中でそんなに気にならない。だから子宮や卵巣はとらなかった。

 たとえば乙さんも検査したら胃袋2つ見つかったけど切りますか、と言われても生活に困ってなかったら、わざわざ切らないですよね。一方で胃袋がぼこっと出てきたら、それは取る。その例えがいいのかわからないですが、そういう感覚的な判断であり、問題ということをわかっていただければと思います。

乙武 なるほどね。トランスジェンダーについて知らない方は、生まれながらの病のような印象を持つ方もまだまだ多いのかな?