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“世界共通の普通”など存在しない

杉山 そういう中で、僕はいま、東京レインボープライドという団体の共同代表で、レインボー・パレードという社会運動の運営をしています。多様な意見がある中で、一つのイベントを作り出して、一つの形にするのには、本当に骨が折れます。

「いつも二丁目から霞が関まで」と話をしているんだけど、本当にいろんな方たちのお話を伺いながら、どこだったらみんなが良しとしてくれるかの落としどころを探しています。

 でも、なにをやってもやっぱり批判されてしまうので、そこをどういうふうにみんなで前に進んでいけるかなっていうことは僕の課題ですね。そこに正解はないし、そもそも皆が目指すべきスタンダードなんてないように思えてきました。

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乙武 結局、障害者にしても、LGBTQにしても、いや、この対談を読んでらっしゃる皆さんにしても、みなそれぞれだし、スタンダードなんてないんだよね。

杉山 はい。それぞれの思うスタンダードというのはあると思うんですけど、世界共通の普通というものはない。だから「普通」とか「みんな」というものはないんだけれども、そういうものにとらわれて自分自身を狭めてしまうケースが多いような気がします。

 今回乙さんに『ヒゲとナプキン』を書いてもらったのも、または僕が自分の半生を『元女子高生、パパになる』でまとめたのも、「私」の物語を伝えたかったから。それを押し付けるつもりはなくて、あくまでこういう生き方もあるんだという選択肢として、読んでほしい。

「数の暴力」には抵抗しなきゃいけない

乙武 だね。僕は「普通ってなんですか」と聞かれたときは、「数の暴力です」と答えるようにしているんですね。

 人間、自ら好んだか好んでないかにかかわらず数が多い側に生まれるか、数が少ない側に生まれるか、のどちらか。本当、ルーレットみたいなものだからわからない。僕は選んだわけでもないけど、こういう体に生まれて、めちゃくちゃ数が少ない側だった。

 文野も別に選んだわけじゃないけど、トランスジェンダーという境遇に生まれて、めちゃくちゃ数が少ない側だった。そのせいで、どれだけ理不尽な制限を受けてきたかといったら、歯ぎしりして血が出るんじゃないかというぐらい悔しい思いをしたと思う。

「乙武さんも、文野さんも明るく楽しそうに生きてきて、それぞれのカテゴリーの希望の星です」みたいな言われ方、扱われ方をされてきたけども、やはり理不尽であることは否めない。

 それを乗り越えたり、いまだ乗り越えられてなかったりするなかで生きてるわけだし、そんな理不尽さは、ないほうがいいに決まっている。

 

杉山 そうですね。

乙武 それを、「おまえたち普通じゃないから」ということで抑えられてきた側面もある。それは俺にとっては、数の暴力としか思えないんだ。そうした暴力にはとことん抵抗しないとね。

杉山 数の暴力か、確かにそうですね。

乙武 よかったらその言葉パクっていいよ(笑)。

杉山 ハハハ。数が多い少ないに限らずいろんな考えがありますが、「こうあるべき」の押し付け合いではなく、「こうありたい」というそれぞれを応援できるような社会にしたいですよね。この本が、そのきっかけになったら嬉しいなと思います。

※本記事は、2020年11月17日に開催された書店イベント「世間のふつうを疑え――『ヒゲとナプキン』刊行記念」(紀伊國屋書店新宿本店)を再編集しました。

ヒゲとナプキン

乙武 洋匡 ,杉山 文野

小学館

2020年10月28日 発売

元女子高生、パパになる

杉山 文野

文藝春秋

2020年11月11日 発売