1ページ目から読む
3/4ページ目

トランスジェンダーは「障害」ではない

杉山 そうなんです。性別違和が強い場合、日本では「性同一性障害」という疾患名をつけるケースがあります。これは世界的に見ると、障害でもなんでもない。トランスジェンダーは一つの生き方なんです。WHOの精神疾患分類からも外れました。だから遅かれ早かれ、「性同一性障害」という言葉はなくなる方向です。

乙武 日本だとどうなの?

杉山 その方向性にはあるけども、法律も絡んでいるから簡単ではないです。2004年に日本では、性同一性障害特例法という法律が施行されました。ある一定の条件を満たすと戸籍上の性の変更ができるという法律です。これまでに約9000人ぐらいの方が戸籍上の性の変更をしています。その戸籍変更の要件が日本は非常に厳しい。

ADVERTISEMENT

 いくつかある条件の中の、特に問題視されているのが手術要件です。要は、戸籍変更したかったら生殖機能を手術して取り除きなさいと法律に定められているんですよ。世界から非難を浴びている条件です。

©iStock.com

 その観点でいえば、僕自身は乳房を切除しましたが、子宮と卵巣の摘出をしていないからその要件に当てはまらないから戸籍の変更ができない。

 逆に言うとですね、本当は手術までしたくない方も、戸籍変更のために手術をするケースもあります。

乙武 手術をしたくてする方はそれで問題ないんだろうけれど、手術をしたくないと思う当事者にも手術を強要している法律は、問題だね。

ロンドンで実感した“公平さ”と“不公平さ”

杉山 手術を受けた方、受けていない方のそれぞれの選択は尊重すべきものとして、それを一概に「トランスジェンダー」とは括れないわけです。それは、ゲイだって同じなんです。たとえば人種の差があったり、出自の差があったり。白人のゲイの方は黒人のゲイの方を差別するみたいな話もよく聞くことがあります。

 LGBTQの団体は世界にたくさんありますが、レズビアンよりも、ゲイのほうが社会的な立場が上だという空気があると指摘する方もいます。その背景には、男性優位社会という慣習が根差しています。

乙武 いま文野が言ったことを実感したことがあって、3年前にロンドンに3カ月滞在していたときに、ちょうどロンドンのプライド・パレードがあって、参加させてもらったんだ。

 日本では、僕は身体障害者としてマイノリティだから、同じマイノリティであるLGBTQに対して親和性を感じるし、逆もまたしかりという部分があるように思っている。だから、その場にいた白人のゲイの方に「ロンドンでも、LGBTQの方は障害者に対して親和性を感じるようなことはあるんですか」と質問したのね。そのときに返ってきた答えが衝撃的だった。

 

「自分は白人のゲイとして生きてきて、あまり自分がマイノリティと感じたことがないんだよね。黒人のゲイとかムスリムのゲイとかだったら大変だと思うんだけど」とさらっと言ったんだ。

 一人にしか聞いてないから、それがロンドンの白人ゲイを代表する考えだとは思わない。だけど、ロンドンで生活する上で「マイノリティだと感じていない」という公平さ、それに続けて「黒人やムスリムならそうではないかもしれない」という不公平さが言及されるという点が強く印象に残っている。

杉山 そこには一側面からは語れない問題が、複雑に絡み合っています。多様な存在を尊重するというのは、本当に大変です。多様性という言葉自体は、よく使われるようになりましたが、多様な方たちの多様な意見は、多様すぎてまとまらないんですよ。

乙武 本当にその通りだよね。