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「君のドルチェ&ガッバーナ」瑛人『香水』爆発的ヒット最大の理由はサビの歌詞が刺激する“聴覚と嗅覚”

いしわたり淳治『言葉にできない想いは本当にあるのか』

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, 音楽

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 人間には、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の5つの知覚がある。歌詞を書く時、作者はそれらの知覚を駆使して言葉を紡いでいくことになる。例えば、主人公が海辺にいる時、「水平線を外国船が横切る」と書けばこれは視覚的な描写だし、「寄せては返す波の音」と書けば聴覚的、「潮風の匂い」と書けば嗅覚的、「足にまとわりつく砂」と書けば触覚的、「しょっぱい水」と書けば味覚的な描写である。少し考えただけでもこんな風に様々な角度から海辺を表現できるものであるが、実際、世の中にある歌詞はどうかというと、案外、視覚的な描写ばかりで書かれていることが多い。

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頭の中で物語を紡ぐとほとんどが視覚的な描写になる

 これまで、色々なアーティストと歌詞を共作してきた私の経験上、作者の実体験を元にした歌の場合は視覚以外の描写も出てくるが、作者がフィクションで頭の中で物語を紡いでいく場合、ほとんどが視覚的な描写になっていく傾向があるように思う。

いしわたり淳治さん

 フィクションはその性質上、空想の映像を言葉にしていく作業なので、言語化しようとした時に視覚的な書き方に偏ってしまうのは、仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。しかし、先にも述べたように、そもそも世の中には視覚的な表現で書かれた歌が多いので、視覚的な歌詞はどこかで聞いたことのあるような印象を与えやすい。

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 それを嫌って、作者がさらに複雑な設定の物語を空想していくと、今度はどんどんニッチな内容になっていって、共感を得にくくなってしまう、なんていうこともある。はじめから他の知覚を用いて作詞してさえいれば、ありがちな歌になることを避けられたのかもしれないのに。

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人間の知覚は視覚が83%

 一説によると人間の知覚の割合というのは、視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚1%なのだという。この数字を見ても、いかに人間という生き物が視覚優位で暮らしているかがわかる。その証拠に、目隠しをした状態で料理を口に入れられると、多くの人は何を食べたのか当てられない。味覚と嗅覚と触覚のパーセンテージを全部足しても6%しかないのだから、その正解率が低いのもうなずける話だ。