著者は「森友事件」の発覚当初から事件を追い続けたNHK大阪放送局の司法担当キャップだった。次々に特ダネをつかむも、書いた原稿は「安倍官邸とのつながり」を薄めるように書き換えられていく。

 NHKでも検察でも東京vs.大阪のせめぎ合いが続く中、ついに著者は記者職からの異動を命じられた。記者であり続けるために職を辞した著者が、官邸からの圧力、巨大組織内で上層部から歪められる報道──スクープの裏側を「忖度なし」に書き尽くす。渾身のノンフィクション『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)より一部を抜粋する。

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指摘するなら根拠を示さなければならない

 この本には虚偽がある、そうだ。NHKが明言している。単行本が出た直後、記者会見で見解を聞かれると「主要な部分において虚偽の記述が随所に見られる」と発言した。記者から当然「どの部分が虚偽なのか?」と質問が出る。ところがこれには「取材や制作に関することはお答えできない」と突っぱねた。

渋谷のNHK放送センター ©iStock.com

 およそ他人の著作について「虚偽がある」と指摘するなら根拠を示さなければならないし、根拠を示さずただ「虚偽だ」と言うのは誹謗中傷のたぐいだ。週刊文春出版部から「抗議しましょうか?」と打診があった。しかし私はその時点では静観することにした。これには理由がある。

 この少し前、単行本が最初に出た日、NHKの小池英夫報道局長(当時)は部内の会議で「私が報道をねじ曲げたことはない」と本の内容を意識した発言をした。続いて局長に次ぐ立場のK編集主幹が「虚偽の記述が随所に見られる」と、後の記者会見とほぼ同じ発言をしている。実はK氏は本書で「K社会部長」として登場する人物だ。お読み頂くとわかるが、私がつかんだ政権に不都合な情報を小池局長の目をかいくぐって何とかニュースに出そうと頑張ってくれた一人だ。小池局長から「こんなことをしていたのか?」と問われれば、立場上「そんなことはありません」と答えざるを得ないだろう。

『メディアの闇「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』 文春文庫

 その後、記者会見で「虚偽」発言をしたY計画管理部長は実は初任地山口で私の1年後輩の記者。社会部でも一緒に旧厚生省の取材を担当した最も親しい友人の一人で、私がどんな記者かよく知っている。あの会見は放送総局長の定例会見で、同席したY氏は用意された紙を取り出し嫌々といった様子で読み上げたという。