相手からタックルを受けながらも振り払える筋力、逆に触れられずに相手にタッチする俊敏性、ひとりを複数人でマークする連携力…目の当たりにしたカバディの激しさは、漫画を描くことへの不安を吹き飛ばすのに十分なものだった。フィジカルコンタクトも想像以上に多く、選手の体型はラグビーやアメリカンフットボールの選手に似ていたという。
実際に自ら競技体験も行い、カバディの面白さと選手の魅力に引き込まれた武蔵野さんと小林さんは、早速連載をスタートさせた。
注力したのは、あくまでカバディを真正面から、しっかりとしたスポーツとして描くことだった。
「サッカーでも、ボールを持っていない時間が大事だったりしますよね。そういう感じでカバディも、狭いコート上での微妙な動きなんですけど、『牽制が上手いな』とか『ここであと一歩踏み込めていたら…』とか、こちらの理解が上がることでどんどん競技としての面白さが分かっていきました。だからこそ、その競技としての魅力は読者に伝えられるようにと思いました」(武蔵野さん)
スポーツに打ち込む高校生たちの「想い」を描く
また、それに伴い登場人物たちの内面を掘り下げることにも力を入れたという。
カバディというマイナーな競技に「あえて」青春時代を懸け、真剣に打ち込む高校生たちの“熱”を読者に伝えること――特にその要素に重点を置いた。
もちろんそこには微塵も「ネタスポーツ」の要素はない。武蔵野さんは言う。
「それぞれのキャラクターの頑張りをしっかり漫画の中で描くことで、少しでも『現実の世界でも頑張っていることは無駄じゃないよ』と読者に伝えることができればな、というのは一番にありますね。
僕、結果が出ないことも作中で普通に描くんですよ。でも、そのプロセスは絶対に『無駄』ではないという風にしたい。『努力』というのはあまり好きな言葉ではないんですけど、やってきたことは無駄にはならないというか、どこかで絶対に力になっているということを伝えたいんです」
「何かに向かって夢中になっている」キャラが好き
そんな思いがあるからだろうか。
作中のキャラクターには「天才」と称される選手も多く出てくるが、目指す方向こそ違えど、彼らは皆一様に自身の信念に向かってひたむきな努力を積み重ねている。いわゆる“天賦の才”だけで戦っているキャラクターは出てこない。
「僕が個人的に、最初から何でもできちゃう…みたいなキャラクターがあんまり好きじゃないんですよね。やっぱり何かに向かって夢中になっている、頑張っている主体性があるキャラクターが好きなんです。『他の人に何を言われても、これをやる』みたいな。なので自然とそういうキャラクターが多いです。
もちろんそういう要素が軸にあって、いろんな方向に枝分かれはしていくんですけど、その軸だけはあんまり変わらなかったですね。才能があることはもちろん悪いことではないですし、あったほうがいいんですけど、ただの“天才”で終わらないようには気を付けています」(武蔵野さん)