「世間的にも、僕の中にも、真面目なスポーツというよりはちょっと“ふざけたスポーツ”というイメージがあって。それを編集者から『連載しよう』と言われた時は、『正直、大丈夫かな』という気持ちはありました。僕はギャグとかコメディを描く漫画家ではなかったので、真面目にカバディを取り上げるって…そんなことできるのかなと」

 そう振り返るのは、現在アプリ「マンガワン」で『灼熱カバディ』を連載中の漫画家・武蔵野創さんだ。

 2015年からスタートした同作品は、現在で連載6年目。作品の累計閲覧数は1億4000万PVを誇り、今春にはアニメ化も決定している人気作だ。

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『灼熱カバディ』単行本は既刊15巻、以下続刊 ©武蔵野創 

スポーツ漫画のテッパン的展開 

 サッカーの全国的なストライカーだった主人公・宵越竜哉が、高校入学と同時にひょんなことから仲間とともにカバディの世界に入門。その競技の奥深さに魅了され、自身とチームを日本トップに押し上げるために奮闘していく――。そんなストーリーは、ある意味でスポーツ漫画の“テッパン”的展開ともいえる。

 だからこそ、ひとつだけ解せないことがある。

 いくつもスポーツがある中で、なぜよりによって作品のテーマにカバディを選んだのか? ということだ。

 おそらく多くの人にとって、カバディという競技への認識は、「カバディ、カバディ叫びながら、何か不思議なことをやるマイナー競技」という程度のもののはずだ。競技の名前自体は意外と聞いたことがある人も多いと思うのだが、それは競技そのものの魅力というよりは、「変なスポーツ」の代表格としてだろう。

2021年4月からはテレビ東京系でのアニメ化も決定している

カバディという「超マイナースポーツ」を選んだ理由 

 そんな疑問をストレートにぶつけると、武蔵野さんに企画を提案したという担当編集の小林翔さんが、こんな風に答えてくれた。

「実はそこは意外と戦略的な狙いがあるんです。カバディという競技のルールを調べると、攻守が明確に分かれていました。サッカーみたいに動き続ける競技ではなく、野球と同じで攻める側と守る側が明確に代わる。攻撃側が敵にタッチして自陣まで戻れば得点が入り、タッチされた守備側はゲームから一時的に退場させられます。退場した仲間をゲームに戻すには、攻守交替後に相手にタッチして得点を獲らないといけない。

 実はこのルールって、人によってはひとりで大量得点が獲れ、一気に状況を変えられるということなんです。なので、逆転劇が描きやすい。そういう意味ではすごく漫画に向いてそう、という思いがあったんです」