カバディを描く独特の「難しさ」とは
一方で、当初は描くにあたってカバディという競技特有の難しさもあったという。小林さんが振り返る。
「カバディは攻撃している間はずっと『カバディ』と言い続けないといけない。多くの皆さんがカバディと言われてイメージするのはこの“キャント”と呼ばれる声出しですね。で、カバディって言い続けないといけないとなると、キャラがセリフを話せないんです(笑)。だから攻撃中はモノローグというか、内面の声で喋るしかないんですよね。
あとは最初のうちは、カッコいいシーンなのに『カバディ』って言わないといけないと『ギャグっぽくなっちゃうかな?』とも思ったんです。でも、慣れてくると僕の中では『カバディ』というキャント自体がカッコよくなってきました。それは読者の皆さんも同じなんじゃないかなと」
ただ、意外と描き手にとってはそんな特徴もデメリットばかりではないのだとか。
「描いていると意外と慣れてきますけどね(笑)。確かに攻撃での仲間とのやりとりとか、声掛けはあまりできないので、各々リアクションは心の声でしたり工夫していますね。セリフで出すときは全部『カバディ』になっちゃうんで、そういうところは漫画的には特殊かもしれません。ただ、結果的に他の作品との差別化にはなったのかなと思います」(武蔵野さん)
作品が目指す到達点は?
「ネタスポーツ」というステレオタイプが蔓延していたカバディという競技。
それをテーマに掲げながら、アニメ化を実現するほどの人気作品にすることができたのは、一見すると非常に稀有なケースのように見える。
思うにヒットの理由は、あえて直球で競技の魅力を描いて見せたことではないか。
ネタに走らず、ある意味で「普通のスポーツ漫画」のタッチで「超マイナースポーツ」を描いた。それこそが逆説的に『灼熱カバディ』という作品に、他に類を見ない斬新さを生み出したのだろう。
では、そんな唯一無二の人気作は、今後はどんなゴールを目指していくのだろうか? そんな話を聞くと、武蔵野さんはこんな風に答えてくれた。
「読者の皆さんが亡くなるときに『棺桶に入れてくれ』と言ってくれる作品にしたいですね。漫画って色んなものがあって、それぞれすばらしいんですけど、人生の最後に堂々と自信をもって、『これは自分のバイブルだ』って言われる本にしたいとは思っています」
作品も、競技も、描く側も、とにかく熱い――。
2021年はぜひ、そんな“灼熱”のカバディの世界に飛び込んでみてはどうだろうか?
写真=石川啓二/文藝春秋
『灼熱カバディ』(武蔵野創著)は、2015年7月より漫画アプリ「マンガワン」(小学館)にて連載開始。元サッカー部のエースストライカーだった宵越竜哉が、高校入学を期に始めたカバディで仲間と成長していく様子を描く。単行本は既刊15巻、以下続刊。2021年4月よりテレビ東京系列でアニメ放送開始。