“日本一熱い男” として知られる松岡修造だが、2020年は心が「ずっと折れていた」と語る。そんな松岡が抱える葛藤と、東京オリンピック・パラリンピックへの思いとは。『「弱さ」を「強さ」に変える ポジティブラーニング』を上梓した松岡に話を聞いた。(全3回の3回目/1回目から読む)
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一番刺さったのは、アスリート以外の方たちの言葉
ーー新型コロナウイルスの猛威と、それを受けてのオリンピック・パラリンピックの延期。さすがの松岡さんでも、2020年という一年は心が折れそうな場面がありましたか?
松岡 基本、ずっと折れていたんじゃないですかね。人が骨を折ると、痛いですし、歩きにくくなります。でも、心が折れたとしても、それってなかなか分かりにくい。はたから見たら、いつもの松岡修造かもしれませんけれども、僕は折れているなかを進んでいる状態です。
ーー確実にコロナ以前とは違うテンションになってしまったと。
松岡 比べていいのかわかりませんが、取り巻く環境は間違いなくすべて変わってしまいました。おそらく元に戻ることはないでしょう。ただ違った形、新しい形になったからには、そこに自分をどれだけ適応できるかどうかが今後とても重要になっていくと思います。
ーー車いすテニスの国枝慎吾さんの章で《コロナ前とコロナ後を比べるのではなく、今をしっかりと受け入れて前へ進むことが大事》と書かれていますが、そこにも繋がりますね。
松岡 心からそう思っていますが、現実と完全に向き合えないところも正直まだあります。国枝さんは障害を受け入れるところからスタートしてきたからこそ、コロナも受け入れて次に進むバネにすることができている。そして昨年9月の全米オープンでは見事優勝したわけです。
いろんな意味で国枝さんに勇気づけられると同時に、いまの世の中をしっかりと受け入れて前へ進むことが大事だと気づいたのは確かですし、今はそれを一所懸命に実践している最中ですね。
ーーコロナは成績やケガとは違った“ままならなさ”をアスリートに突きつけてくるように思えます。
松岡 アスリートの全員が全員とは言えませんが、コロナで人生が狂ってしまうとか、競技生活ができなくなってしまうとか、そういう局面ではないとは思います。スケジュールがなかなか出ない、練習場所がなくなったり、大会そのものがなくなったりと、たしかに大変ではありますが、僕が取材するアスリートたちは国枝さん同様に状況を受け入れようとしていると感じます。
コロナ禍でいろいろな方にお話を伺う中で、僕が一番心に刺さったのは、ロケ先で乗ったタクシーの運転手さんが「やっぱり人がいない。コロナ禍になってお店もぜんぜん開いていない。お店の人がやる気がなくなっちゃうって言ってたんだよね」と仰っていた。