いつもと変わらない甲子園がそこにはあった
9回裏ツーアウトから、4番新沢颯真がライトオーバータイムリーで逆転サヨナラ勝ちをおさめる。喜びを爆発させる明徳義塾ナインのすぐそばで鳥取城北エース阪上陸が泣き崩れ、一人では歩けない。何らいつもと変わらない甲子園がそこにはあった。
そして僕が驚いたのは試合後のインタビューである。勝敗に関係なく、選手、監督ともに周りの皆様に感謝の気持ちしかありませんとの言葉で埋め尽くされた。実際甲子園で試合ができたとはいえ、センバツの代替大会であって、夏の選手権はなくなってしまっている。
悔しい、ナンバーワンを決めたかった――そんな言葉達がでてきてもおかしくない。しかし彼らは「与えていただいた」その場所に感謝し、なお苦しい自分ではなく、尽力してくれた周りへの感謝でその胸を埋めたのだ。
そしてこんな事を思う監督もいる。新チームになり秋季兵庫大会で創部初の準優勝を果たし、来春のセンバツでは21世紀枠での選出があるかもしれない東播磨高校の福村順一監督だ。「旧チームの3年生が独自大会でベスト8。彼らの背中が確実に新チームにいい影響を与えました」
球児にとっては苦しくもかけがえのない1年だった
たくさんの大切なものが奪われてしまったかもしれない。しかし奪われっぱなしで黙ってられるかと、その期間に努力を重ね、夢を勝ち取った球児もいた。苦しい事があったからこそ周りへの感謝を学んだ球児もいた。そして自分達の生き様が、後輩達へ素晴らしい影響を与え、自分達がなし得なかった夢を後輩達が繋げてくれる。
野球というスポーツで将来ご飯を食べていける人はごく僅かだ。しかしその野球を通して学んだ事は、自らの人生に繋げられる。この苦しくもかけがえのない1年を過ごした球児達には必ず輝かしい人生が待っている。
ゲームセットと言われても諦めなかった彼らなのだから。