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 作業速度が落ちるなか、庵野監督は未完成のまま放送を打ち切り、完結編はレーザーディスクやビデオのみという形も考えた。あるいは「人類補完計画」の謎は置き去りにし、アスカが回復してシンジも心の負担が軽くなるといった無難な収束もあり得た。しかしそんな「5点の終り方をするくらいなら、マイナス100点のものを」というのが、あの結末だったと庵野監督は語っている。

苦悩する作者

 番組制作の末期、監督は鬱状態に陥り「死にたい」と繰り返して周囲をいっそう苛立たせた。それはTV放送終了後も続き、感情の振幅の大きさにスタッフは困惑した。

庵野秀明氏 ©文藝春秋

 庵野は『スキゾ・エヴァンゲリオン』で、自殺願望が昂じて一度はガイナックスの屋上に立ち、実際に飛び込めるか試してみたと述べている。これに対して『パラノ・エヴァンゲリオン』では、キャラクター・デザインを担当した貞本義行とアニメーターの摩砂雪が「ちょっとあいつの罠なんじゃないかなって(笑)」「そんなに苦労してるとは、思っちゃいけないんですよ(笑)」と茶化している。

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 しかしそういう「苦悩する作者」がファンを魅了するのは昔からの定番だ。ドワンゴの川上量生会長は庵野監督を評して「殉教者の目をしている。世間の人が考えるクリエイターらしい特徴をすべて備えている」と述べている。ここで「いっしょに死んであげる」的女性や、「来世までも付いて行きます」的弟子が出てくると、太宰治や三島由紀夫みたいなことになりかねない。自殺願望アピールは回避行動でもあるので、庵野監督の周囲にそれを笑ってくれる仲間がいたのは幸いだった。

一度は発表された完全新作の「劇場版」

 TV版『エヴァ』の最終二話では物語全体が回収し切れていないことは、製作者側にも分かっていた。放送後もファンの関心が持続していることを受けて、放送終了後1ヶ月の1996年4月に、最終二話を当初の脚本に沿ってリメイクすると発表された。さらに、そのリメイク版とは別に、完全新作で全ストーリイを描く「劇場版」の製作・公開も発表された。「それぞれの世界観は同じなのか、ズレがあるのか」が、またファンの議論を呼んだ。