庵野は、人にとってのいちばんの恐怖を考えた際、「食われる」ことだと考えたという。これは『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』や『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』の記憶と結びついている(2014年のイベント『庵野秀明の世界』でのトーク)。
強烈だった「人間を食う怪獣」
ギャオスは『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967)と『ガメラ 大怪獣空中決戦』(95)のどちらでも人を食う。付け足すとギャオスに先行する『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(66)でも、バルゴンは長い舌を伸ばして人を飲み込んでいた(ゴジラも人を食う設定だ)。
人間を食う怪獣のイメージは強烈で、トム・クルーズもあるインタビューで、子ども時代に日本製『ガルガンチュア』(『サンダ対ガイラ』の海外題名『The War of the Gargantuas』)で、飛行場で巨人が女性を捕まえてクチャクチャ食べてしまうシーンに衝撃を受け、映画はすごいと思ったと語っている(日本版では地面に散る赤い花束で女性の死が暗示されていたが、海外版では食いちぎられた服がはっきり映されていた)。
EVAには母の魂が溶け込んでいる。パイロットはエントリープラグに入り、そのなかをLCLという羊水様の液体で満たして戦う。
これは明らかに母と胎児のアナロジーだが、幻の「完全新作版」では、パイロットはエントリープラグを使わずに、EVAの子宮に直接入って一体化するという表現を考えていたという。そして出るときは摘出手術。タイムリミットがあって間に合わないと取り込まれて「人としては死んでしまう」設定だったという。
庵野秀明は、メジャーな商業アニメの現場では忌避されるような過激な表現もタブーとしない。ストーリイといい、製作態度や発表方法といい、斬新さをねらってというより、自分の思いを優先させるアマチュア的真摯さが感じられる。
そうした庵野監督の姿勢は、何に由来しているのだろうか。