「マイク・ペンスを吊るせ!」絞首台も登場
議事堂内も混乱を極めた。狭い通路で大量の暴徒と警官がもみ合い、圧死寸前の者が撮影されている。議場に入ろうとする暴徒に警官たちは銃を向けた。議員たちは椅子の下に備えられている、毒ガスなどを防ぐ非常事態用のマスクを被り、避難した。
フェイス・ペイントを施し、角の付いた毛皮を頭にまとった上半身裸の男が議場の演壇に立った。トランプが天敵とみなす下院議長ナンシー・ペロシのオフィスにも別の男が入り込み、デスクに脚を乗せた。いずれも議会と議長への侮辱が目的だ。
暴徒が「マイク・ペンス(副大統領)を吊るせ!」と唱えるシーンも録画されている。議事堂のそばでは角材を組み立て、ヌースと呼ばれる縛り首用の縄を吊るした絞首刑台が見つかっている。
午前中の集会の演説で、トランプは合同会議によるバイデンの大統領認定を止められないペンスを非難しており、かつ暴動の最中に「ペンスは我々の国と憲法を守るためにするべきことを行う勇気を持たない」とツイートしている。後にツイッター社はトランプのアカウントを永久凍結した。
銃を構えた警官を見ても、支持者らはなぜ怯まないのか
この暴動による死者は5人。うち1人は警官による射殺。カリフォルニア州から駆け付けていた元空軍の女性を含む暴徒の一団は、議員たちがいる議場へと続くガラスのドアを打ち破ろうとしていた。ドアの向こう側では警官が銃を構えていたが、女性はドアによじ登り、そこで射殺された。女性は「TRUMP」と書かれた旗をマントのように纏っていたが、武器は持っていなかった。
他の3人は暴動の最中に心臓発作、脳卒中、他の暴徒に踏み潰されて死亡。暴徒に消火器で頭部を殴られた警官1名も死亡。いずれも白人だった。
射殺された女性は、白人で女性、さらに元軍人である自分が警官の標的になるとは想像さえしなかったはずだ。
ドアのガラス越しに銃を構えた警官の姿は見えていた。映像を撮影していたジャーナリストは何度も「銃だ!」と叫んでいた。それでも女性はドアを突破しようとした。本人も気付かないままに白人特権意識を植え付けられていたからこそ、議員がいる議場に暴徒として乗り込む行為の代償の大きさに思い至らなかったのだ。
事件の陰に人種問題の影響も
今回の暴動は「アメリカを救う」集会から自然発生したものではなく、あらかじめ計画されたクーデターの未遂事件だとする疑惑も出てきている。いずれにせよ目的は大統領選の結果を覆すことであり、人種問題ではなかった。しかし暴徒がいともたやすく議事堂に乱入してしまえたのは、暴徒が白人であったからだ。繰り返すが、もし暴徒が黒人であれば、警察による一斉射撃が行われていただろう。
折しも暴動の前日、ジョージア州では上院2議席の決選投票が行われた。上院の多数派が民主党、共和党のどちらになるかが決まる非常に重要な選挙だった。大接戦の末、2議席とも共和党の白人の現職が敗れ、民主党候補が勝利した。当選者の1人は黒人教会の牧師であった。