プロボクシングの世界チャンピオン、井岡一翔の“タトゥー問題”がなかなか収束の気配を見せない。
昨年の大みそかにWBO世界スーパー・フライ級王座の2度目の防衛を成功させた井岡は、挑戦者の田中恒成を圧倒して8回TKO勝ち。試合自体は見事の一言に尽きたが、その後に意外な形で脚光を浴びることになった。井岡が左腕に大きく入れたタトゥーがはっきり見えていたことが議論を巻き起こしているのだ。
国内のプロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)が「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」は「試合に出場することができない」というルール(第86条)を定めているからだ。
9日には彫り師の団体である「日本タトゥーイスト協会」がJBCに井岡の処分を巡って抗議文を発表するなど、泥仕合の様相を呈している。
入れ墨の是非、JBCが定める“入れ墨禁止”のルールの善し悪しを巡ってさまざまな議論が出ているが、本稿ではそこの是非はひとまず置いておいて、実際にこのルールがどのように運用されてきたのか、また、タトゥーの入ったボクサーが試合に出場する際にはどのようにタトゥーを隠しているのかを紹介したい。
入れ墨は「禁止」ではないが「隠す」必要あり
まずはJBCが定める「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者は試合に出場できない」というルールについてだ。
これは入れ墨を入れること自体を禁止しているわけではなく、「リングに上がるときは何らかの方法で入れ墨を隠さなければばらない」という決まりである。
このルールが存在するのは、かつてボクシング界が暴力団と強く結びついていた時代があったからだ。その結果定着していた「怖い」、「ならず者のスポーツ」というイメージを払拭したいという思いがこのルールの心と言えるだろう。
2000年以降はキッズ世代への普及活動も始まり、ボクシングは「クリーンで子どもでも安心して取り組めるスポーツ」にならなければならなかった。日陰の存在から日の当たる存在に――。なんだか涙ぐましい気もしてくる。
タトゥーにまったく抵抗のない人たちの中には、「いったいいつの時代の話をしてるんだ!」とツッコみたくなる向きもあるだろうが、とにもかくにもボクシング界はこの入れ墨に関するルールを長年に渡って維持してきた。入れ墨は隠すものである。これはボクシング界の常識であり、今でもタトゥーを入れてプロになりたいという者がいたら、「おい、それ隠さなくちゃダメだぞ」と当たり前のように教えられる。