「綿引さんがメインのシーンでほかの役者が芝居に力が入り過ぎてしまったり、芝居に違和感があると、綿引さんは『オマエ、何やってんだ! そんな芝居しやがって』と、急に撮影を止めて現場で怒鳴ることも何度かあった。すると後日、『こないだはどうもすみませんでした』と丁寧に頭を下げる。綿引さんは芝居へのこだわりが強く、芝居が好きでつい熱が入ってしまうんです」
綿引さんの「お父さん役」は異色のキャスティングだった
そんな綿引さんは91年、役者人生で転機となる作品と出会う。大家族をテーマとしたドラマ「天までとどけ」(TBS系)だ。
同作は、昼の帯ドラマとしては異例の最高視聴率19%を記録。1999年まで8作のシリーズが続いた名作ホームドラマだった。八男五女の大家族を支える母親役を岡江久美子さん、そして、新聞記者で大黒柱の優しい父親役を演じたのが綿引さんだった。
「恨まれ役で顔が怖かった綿引さんが大家族の父親役という異色のキャスティングが、あのドラマの大ヒットに繋がった」
そう語るのは「天までとどけ」の初代プロデューサー、澤田隆治氏だ。
「普通のホームドラマならやさしいパパということになるんだけど、子供がたくさんいる記者の役だから多少コワモテでもいいだろうと。綿引さん自身がそれまでああいう父親役をやったことがなかったので、お昼のドラマとしては異色だったかもしれません。
母親役も当時はNHKの朝ドラ経験のあるベテラン女優さんが演じることが多かったのですが、岡江さんが母役を演じて、温かい母親像の代名詞となりました。少子化の時代に大家族の話がウケて、お昼に見られない人のために夕方に再放送したくらいでした。
約10年続くシリーズとなりましたけど、当時はあのドラマがヒットするなんて誰も思っていませんでした。当初は1クールだけの予定で、綿引さんも最初は乗り気ではなかったと思います。でも、シリーズを重ねる度に視聴率と知名度が上がり、綿引さんや私たちスタッフも自信になっていきました」
実は検討されていた続編「シリーズ9」
昨年4月に新型コロナウイルス感染による肺炎で急死した岡江さんの訃報からわずか9カ月後の別れに、かつて同作で四男役を演じた俳優の須藤公一はTwitterで早すぎる父の死を悔やんだ。
〈1年で2回も同じ投稿をするとは思いませんでしたよ お父さん、お母さん。。。 みんなの願い みんなの幸せ 天までとどけ〉
岡江さんと大和田獏の実娘、大和田美帆も、こうリツイートしている。
〈悲しい。悲しすぎる。ママもきっと「あらやだっ!お父さんもきちゃったの!」って言いながらポンとお父さんの肩を叩いてる姿が想像できるよ〉
出演者らによると、「天までとどけ」の番組終了後も綿引さんや出演者、スタッフは定期的に食事会をおこなっていた。昨年はコロナで皆が集まることができず、闘病中の綿引さんは岡江さんの訃報に絶句し、大変なショックを受けていたという。
初代プロデューサーの澤田氏が続ける。