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「国内での実績無し」で「日本人初のメジャーリーグ監督」を目指す男・三好貴士42歳の物語

文春野球コラム ウィンターリーグ2021「呼ばれてもいないのに海を渡った野球人」

2021/01/16

独立リーグの指導者として実績を残し、ついにMLB傘下へ

 現役引退後は英会話教室の営業とクラスマネジメントとして腕を振るっていたが、2009年の31歳で野球への思いが捨てきれずに「もう一度やってから引退しよう」と再び渡米した。すると、コーチ就任の話が舞い込み、以降は独立リーグで指導を続けた。そして2015年のシーズン途中から独立リーグのソノマ・ストンパーズで監督に昇格。2016年には前後期とも優勝、2017年にも前期優勝に導くなど秀でた成績を挙げた。

 こうした実績や履歴書を送り続けたことが実り、2018年からコーチ、2020年からは監督としてツインズの傘下で指導を続けている。異国で成功した理由は、選手たちに確かな意志や思考を植え付けることに長けているからだろう。

「ソノマの時はグラウンド内外のマネジメントが上手くいきました。歴史の浅い球団で組織に文化が無かったので、野球だけを上手くさせようとするのではなく、あらゆる面でプロフェッショナルとしての意識を変えました」

 まず、チームの始動日に小冊子を配った。街やスタジアムの歴史、オーナーの経歴、スポンサー、ホストファミリーの紹介をまとめ、それを読ませた。チームルールも記し「この中のルールを1つでも犯せば、どんな成績を残していてもその時点でクビにする」と告げた。選手たちは細かな内容に面をくらっていたが、その次はゴミが落ちていたクラブハウスの掃除をさせた。

 一見するといかにも日本的だが、「やる理由」を解くことも大切にした。だからこそ最初のミーティングでそこに時間を割いたのだ。

「選手がやらされているだけでは思考として根付きません。自分の所属している組織に誇りを持てていない人間が成功するわけがないですから」

 人間は同じレベルのコミュニティーに集まるようになりがちだ。そこで環境を言い訳にしてしまうことは往々にあるが、三好はまずその環境からガラリと変えることに注力した。ここから抜け出してメジャーの舞台を夢見るばかりの青年たちに、まずこの場所で誰のお金から彼らの給料が生まれているのかや、この地で野球をする意義を解いた。

 采配でもセイバーメトリクス(野球の統計学的データ)を用いた戦術と選手たち個々のメンタルを絶妙にかけ合わせた。イチローが現役引退会見で「頭を使わなくてもできてしまう」と指摘した通り、昨今のMLBはデータ偏重となっている。その中にあって三好は“データに踊らされるマリオネット”になるのではなく、叩き上げで成り上がってきたからこその感性も大いに駆使する。

「セイバーメトリクスを使うからには普通に采配する以上にコミュニケーションや準備が重要なんです。人は考えがあって動くものですし、短期決戦で生きるか死ぬかのプレーオフでは確率が低いことを相手がやってきた時にも備えておかなくてはいけないからです」

三好貴士監督(本人提供)

「“メジャーでやりたい”じゃない。“やる”と決めている」

 そしてそれは現代を生きる全ての人にも通ずることだ。

「現代はもうAIによるアルゴリズムによって思考までも支配されているんだということを理解しなくてはいけません。スマートフォンで目に入ってくる情報やニュースだって気づかぬうちにそうなっているんです。これからの時代に最も必要なのは“意志力”ですね。誰かや何かに動かされてやるのか、意志を持ってやるのかで大きく分かれるでしょう」

 そう力を込めるだけに目標も明確だ。

「“メジャーでやりたい”じゃありません。“やる”と決めています。自分の夢ではなくて、そうなった方がいい。これだけいろんな国から人が集まってきているんですから」

 自らの強い意志で切り拓いてきた道は山頂が見えるところまでやって来た。ここからがさらに険しい道だが、その頂上に立つ「日本人初」が国内で何ら実績を持たない男だとしたら。

 その功績が与える影響は日本のみならず極めて大きいものになるだろう。そしてそれは三好が感銘を受けたジャッキー・ロビンソンの言葉にも通じることだろう。

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