「お気に入りの部屋」に隠されていたもの
ホテルの共用部での出来事についてはある程度監視の目が行き届くのだが、部屋は密室なので、中でのやりとりを観察することは不可能だ。このことを利用してホテルの部屋で麻薬の密売が行われたり、拳銃などの武器の受け渡しが行われることがあり、ホテルとしてはその取締りには限界があると言わざるをえない。
お客様の中には部屋を指定していつでも同じ部屋での宿泊を強く希望する方がいる。お気に入りの部屋、ということでホテル側もなるべくお客様の意向に沿うよう努力をするのだが、時折、別の理由が隠されていることがある。
あるホテルで、いつも常連のお客様が指定する部屋で空調機の不具合があり、バスルームの天井の点検口から天井裏の配線をチェックする作業を行った時のことだ。点検口を開けて中に手を入れるとなにやらひやっとする金属の重たい感触が。作業員が手にしたものは拳銃だったのだ。どうやらそこに宿泊する常連のお客様が、警察の追及から逃れるために拳銃をホテルのお気に入り(と称する)の部屋の点検口に隠していたのだった。
同様にベッド交換の際に、ベッドの下から大量の覚せい剤がみつかったこともあった。またユニットバスのバスを取り外したところ壁との間に覚せい剤が埋まっていたなどという奇妙な事件が報告されたこともある。
ホテル側でも時折、部屋中入念な清掃を施すことが必要だ。デスクの裏、クローゼットの奥、そして点検口の裏などなど。
ホテルは泊まる人を選ばない。そのためいろいろな顔をもった方々が毎晩、ホテルという建物の中でいろいろな所業に及ぶのだ。私は2年半ほどの短いお付き合いであったが、なんだかずいぶん人生の経験をさせてもらった。そしてつくづく思うのがホテルは人間動物図鑑であることだ。