反共ラジオ体操第一、用意!
……さて、こう文章で書くと難しそうだが、実際の功法の動作は、ラジオ体操と同程度の運動強度の手足の曲げ伸ばしである。子どもや老人でも気軽にできるだろう。なによりスマホから再生される李洪志のかけ声を聞きながら各動作をおこなっていくため、いっそう「ラジオ体操」感が強い。
とはいえ、あくまでも気功である。続けるうちに「気」が集まるのか、なぜか両手に強い熱を帯びるような感覚を覚えて驚いた。身体もぽかぽかとしはじめ、入浴直後のように芯から温まる感じがある。
中国版ノストラダムスはコロナを予言した!
法輪功をどう評価するか、政治的なイデオロギーをどう考えるか、そもそも気功の科学的根拠とはなにかといった各種の難しい問題はさておき、明らかに健康にはよさそうだ。往年、中国で公称1億人が参加する大ブームが起きたのも充分に納得できる。
第五式功法まで終わるころには、集会の開始から3時間が経過していた。修煉後も、大部分が顔見知りである修煉者たちは部屋に残り楽しげに談笑している。やがて、ある中国系日本人の女性が室内のホワイトボードを使って演説をはじめた。
新型コロナウイルスの流行は十四世紀の明の洪武帝の軍師・劉伯温(劉基)によって予言されていたという、機関紙『大紀元』WEB版の最新記事の紹介だ。
「予言には「「七人一路走、引誘進了口、三點加一勾、八王二十口」」という表現が見られます。これは法輪功の教えである「真(ヂェン)・善(シャン)・忍(レン)」の漢字を分解したものなんです。真善忍の教えによって、人類は疫病を乗り越えられますよ」
話を聞いていた他の修煉者たちが、口々に「なるほど!」「そうだったのか!」と納得の声を上げた。やっと得心したという表情で、うんうんと頷き続ける男性もいる。劉伯温は難解な予言詩を残したことで知られており、いわば中国版のノストラダムスだ。
私はオカルトに対しては比較的冷淡である。親切に気功を教えてもらえたのはありがたく、身体の調子もすこぶる良好になったのだが、集会が終わったとき、少なからずほっとした気持ちになったのも確かだった――。
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※本記事は2020年2月6日刊行の『現代中国の秘密結社』(下部リンク参照)の一部を、編集のうえ抜粋したものです。また、著者の安田氏のもうひとつの安田氏の新著、群馬県のベトナム人豚窃盗問題と技能実習生問題の真の闇を暴く『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)も2021年3月2日刊行予定!