疑似宗教団体的な気功集団「法輪功」をご存知だろうか。かつて中国国内で1億人近い修煉者(=信者)を集めた法輪功は1999年に当局と決裂し、苛烈な弾圧を受けた。拠点を海外に移転後は傘下メディアの『大紀元(epochtimes)』などを通じて、日本語を含めた各言語で激しく中国共産党を批判している。ただ、新型コロナの発生理由(生物兵器説)やトランプ再選にまつわり、真偽不明の情報を数多く流布するなど、その行動が世界に思わぬ影響を与えているのも事実だ。

 中国ルポライターの安田峰俊氏の新著『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)では、この法輪功の成立した経緯や活動内容、組織の性質などについても詳しく解説している。今回は同書のなかから、日本国内で実施された法輪功の集会を、許可を得て取材した際の描写を紹介しよう。(全2回の1回目/後編を読む)

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スマホから響く鐘の音

「あら、あなたは結跏趺坐ができるんですね。私はできるまで時間がかかったのに」

 まだ日本がコロナ禍に飲まれる以前の2020年2月、都内の某所にある公民館の畳部屋で、車座になって座っている向かい側の女性から褒められた。

 私の実家は禅宗(曹洞宗)の寺院で、私自身も若いころに数年ほど僧侶だったことがある。坐禅は10年ぶりだが、左右の足の先を反対の足の太腿に乗せる結跏趺坐は、いまでも一応やることができた。

「いやいや、うちでは右足を上にして組むんですよ」

 この日の集会への体験取材を認めてくれた、リーダー格の初老の日本人・山田(仮名)が教えてくれた。結跏趺坐の組み方は曹洞宗と同じだったが、私の記憶のほうがいい加減で、左右を間違えていたようだ。慌てて足を組み直し、丹田(へその下)のところで両手をタマゴを握るような形に結印させる。最初の坐禅がはじまった。

 5分後、山田のスマホから鐘の音が響く。

 足を組んだまま、左の手のひらを拝むように縦に立て、右手を腹のところまで下げて横方向に伸ばす。「単手立掌」という、彼らの独特のポーズである。そのまま、さらに5分間、坐る――。

華人社会で最大規模の反共組織

 彼らが信じるのは法輪功(法輪大法)の教えである。

 法輪功は疑似宗教的な性質を持つ気功学習集団で、前世紀末から中国共産党によって「邪教」とみなされ、目の敵にされている。対して法輪功も共産党を深く憎み、いまや気功結社というより、全世界の華人社会で最大規模の反共組織と化している。日本でも活発に活動しており、都内の池袋などの中国人の多い街では、機関紙の『大紀元』を配る法輪功メンバーの姿をしばしば見ることができる。

2015年5月、まだ言論が自由だった時期の香港・尖沙咀のスターフェリー乗り場で宣伝活動をおこなっていた法輪功のブース(著者撮影)

法輪功は、中国国内で多数の修煉者が当局の「臓器狩り」に遭い、臓器売買の犠牲になっていると主張している。実態は不明だが、少なくとも中国国内で修煉者やシンパとみなされた人間が当局による不当な拘束や暴力を受ける例があるのは事実だ。

 1999年4月に北京で修煉者たちが起こした中南海包囲事件を契機に、中国共産党の弾圧は激化し、法輪功は活動の拠点を海外に移した。ただ、私に山田を紹介してくれた50代の在日中国人女性・楊(仮名)はこう話す。