棋界を超えて旋風を巻き起こす藤井聡太四段。29連勝の記録に加え、中学生と思えない落ちつきぶりも話題となっているが、彼はいったいどこまで伸びるのか。

 史上最強中学生棋士の素顔に迫った新刊『天才 藤井聡太』(中村徹 松本博文の著者の1人・松本博文氏が、今後必見の対局や目指せる記録について、解説した。

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 藤井聡太四段は今から1年前、2016年10月1日に、史上最年少棋士としてデビューした。以来、負けなしで歴代最高記録の29連勝を達成したのは周知の通りである。

 デビューから約1年経った、2017年9月27日。藤井は棋聖戦の一次予選で、竹内雄悟四段と対戦した。終盤は二転三転の大熱戦。藤井が明確に敗勢に陥ったと思われる局面もあったが、最後は持ち前の終盤力を発揮して、大逆転で勝利した。

 連勝中のように、過剰にテレビのワイドショーで報じられなくなっても、依然、おそるべきハイペースで勝ち続けていることには変わりがない。

 それでは今後、藤井にはどのような記録が期待されているのか。藤井ブームで将棋の楽しさに目覚めたという方にもぜひ注目してもらうべく、その見どころをご紹介したい。

大盛況の子ども将棋教室。未来の強敵が現れるか。©橋本篤/文藝春秋

(1)記録部門の更新

 2017年9月27日の対局が終わった時点で、藤井四段の通算成績は、42勝6敗(勝率0.875)。

 ちょうど年度前半が終わろうという段階で、2017年度の成績を見れば、38局戦って、32勝6敗(勝率0.842)となっている。

 将棋界では、対局数、勝数、勝率、連勝数を「記録4部門」として表彰する。現役棋士160人中、藤井の17年度の成績は、対局数、勝数、そして連勝の3部門で1位。勝率では2位だ。過去最高の29連勝をマークして、連勝賞の受賞はほぼ確実だが、参考までに、それ以外の部門の、過去の最高記録を列挙してみたい。

対局 羽生善治 89局(2000年度)
勝数 羽生善治 68勝(2000年度)
勝率 中原 誠 0.8545(1967年度)※47勝8敗

 いずれも将棋史に残る大記録である。藤井の実力と勢いをもってしても、これらに迫るのはもちろん、容易なことではない。とはいえ、年度末に、これらの記録を更新する可能性が出てくるとしたならば、再びの大フィーバーが巻き起こる可能性は高い。

29連勝達成。そのほかの記録でも快進撃は続く。©白澤正/文藝春秋

(2)史上最年少でのタイトル挑戦、獲得

 将棋界には現在、竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖の八大タイトル戦が存在し、ひとつの年度に8回のタイトル戦がおこなわれる。基本的にタイトル保持者と、トーナメントやリーグ戦を勝ち抜いた挑戦者が、七番勝負か五番勝負の頂上決戦でタイトルを争う、というスタイルだ。1年間に、延べ8人のタイトル獲得者(防衛あるいは奪取)が誕生するわけだが、史上最強の羽生善治は、19歳で竜王位を獲得して以来、実に98期のタイトルを獲得している。

 藤井がここまで喫した6敗はいずれも、一度敗れると、そこでタイトル挑戦や、優勝の可能性がなくなる棋戦での敗退である。2017年度中、つまり中学3年のうちに、藤井が八大タイトルを獲得する可能性は、すでになくなった。

 しかし、今期からタイトル戦に昇格し、18年3月から七番勝負の開催が予定されている「叡王戦」(主催はIT企業ドワンゴ)への挑戦の可能性は残されている。叡王戦は現在、段位別予選が進行中だ。藤井は四段戦において、梶浦宏孝四段、都成竜馬四段を破って、ベスト4まで進んでいる。

叡王戦予選トーナメント一回戦。対梶浦宏孝四段。 ©白澤正/文藝春秋

 これまでの最年少タイトル挑戦記録は、1989年12月、屋敷伸之四段(当時)が中原誠棋聖に挑戦した際の17歳。屋敷は前年10月に16歳で四段デビューし、1年と少しで、その大記録を達成したことになる。屋敷はその時、フルセットの末に、2勝3敗で、中原誠棋聖に敗れた。当時、棋聖戦は1年に2度行われていた(現在は1度)。そして次の期でも、屋敷五段(当時)が再び挑戦権を獲得。今度は3勝2敗でタイトル獲得を果たしている。その時、屋敷五段は18歳6か月で、これが現在にまで残る史上最年少タイトル記録である。

 現在15歳の藤井が今年度か、あるいは来年度に、タイトル挑戦、獲得を果たせば、屋敷現九段の記録を大幅に更新することになる。ここでもまた、藤井が最年少記録を作ることができるのか。タイトル戦の番勝負における頂上決戦は、将棋界の華といってもよい。そこに藤井が姿をいつ見せるのかは、もちろん大きな見どころである。