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 それまで女性アイドルが活動できるのは、10代からせいぜい20代前半までだったはずだが、中澤裕子は27歳までモーニング娘。に所属し、この前例をも打ち破った。グループ自体も、1期生が結成8年後に全員卒業したあとも存続し、長寿を保っている。こうして女性アイドルも、ファンにとって一緒に年齢を重ねていく「人生の一部」となっていった。

アイドル寿命の延びとファンの「結婚観」の変化

 いまでは、20代後半になってもグループにとどまるアイドルは珍しくない。去る10月に乃木坂46を卒業した白石麻衣はその時点で28歳だったし、AKB48では現役最年長の柏木由紀が今年29歳を迎えた。さらにここ数年、男性アイドルと同様に結婚し、ファンから祝福されるケースが女性アイドルにも出てくるようになった。

 昨年4月には、新潟のご当地アイドル・NegiccoのオリジナルメンバーであるNao☆(当時31歳)がバンド・空想委員会の岡田典之と、今年6月には同期のMegu(同31歳)がドラマーの山下賢と結婚した。Negiccoは楽曲のクオリティの高さや地元メーカーの切り餅のCMへの出演により、全国にファンを持つ。2003年結成で、活動歴はすでに15年を超える。

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NegiccoのNao☆ 本人のインスタグラムより

 2019年はNao☆のほかにも、9月にでんぱ組.incのメンバーの古川未鈴(年齢非公表)がマンガ家の麻生周一と、11月にグラビアアイドルの倉持由香(当時28歳)がプロゲーマーのふ~どと、それぞれ結婚を発表しており、ひとつの画期となった年だった。

倉持由香と夫のふ~ど 本人のインスタグラムより

 アイドルの定義やファンとの関係は、ここまで書いてきたように、この40年間で大きく変わった。ただ、結婚を機に引退するにせよ活動を継続するにせよ、あるいはアイドルから別の分野に進むにせよ、その選択に、「自分らしく」「人間らしく」生きたいという動機付けが垣間見える点では、ここまで挙げたアイドルすべてに共通する。

 女性アイドルが現役のまま結婚するケースが、男性アイドルに遅れをとりながらも出てきたのには、女性全般を取り巻く社会環境の変化もあるのだろう。アイドルにかぎらず、かつて女性たちは学校を出て就職しても、結婚とともに退職を余儀なくされるのが普通だった。

 そうした風潮も80年代の男女雇用機会均等法の施行などもあって、徐々にではあるが変わっていった。アイドルもまた、女優などに進むためのひとつのステップではなく、それ自体を職業ととらえるなら、結婚しても活動を継続するのは何も不思議なことではない。

 前出の小倉千加子は、2012年に『松田聖子論』の増補版を上梓するにあたり、《百恵と聖子は対極にいたのではない。百恵の辿りついた地点から聖子は出発したのである。百恵から聖子はバトンを受け継いだに過ぎない。/女性は誰もみな同じである》と書いた(※2)。そのバトンは、聖子からさらに現在のアイドルにも引き継がれているに違いない。

※1 残間里江子「山口百恵」(朝日ジャーナル編『女の戦後史 Ⅲ 昭和40・50年代』朝日選書、1985年)
※2 小倉千加子『増補版 松田聖子論』(朝日文庫、2012年)